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引っ越したい気持ちを明里に相談すると、彼女は背中を押してくれた。
それから引っ越しまでは、あっという間だった。
不動産アプリで、明里のアパートの近くに空き部屋を見つけ、家賃や他の条件も部屋の内装も文句なしだったため、早々に契約をした。
お母さんにも、ホームレスに侵入されたことを説明し、それを理由に引っ越したい旨を伝え、了承を得た。
引っ越しの時期じゃないから、引っ越し業者も高額ではない値段で手配できて、引っ越し日も最速の空き日に決まった。
段ボールの梱包作業を明里に手伝ってもらっている最中、
「そういえばあの時私が買ったお酒とおつまみ、冷蔵庫にあるよね」
と言い出した。
「今日引っ越し終わったら、引っ越し祝い兼ねて飲もうよ。おつまみはいくつかダメになってると思うけど…」
「うん!」
賞味期限の切れたおつまみは今のうちに捨てようということになり、明里とキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けると、袋に荒らされた形跡があった。
「あれ?美咲、これ触った?」
「ううん、触ってない」
「おかしいな、中に入ってたおつまみ、なくなってる」
康平と冬服を取りに来た数日前は、おつまみの話題は出なかった。
彼が洗面所に駆けつけるまで、時間にして数分で、冷蔵庫を開けるような音はしなかったと思う。
「お酒もいくつか減ってるんだけど…」
納得がいかないまま、とりあえず業者が来るまでに梱包作業を済ませるため、一旦キッチンを離れた。
「引っ越す前にゴミだけ出してくよね?袋出しちゃおっか」
ゴミ箱を開けた明里が、あっと声を上げる。
駆け寄ると、ゴミ箱の中にお惣菜の容器がいくつか捨てられていた。
私と明里は顔を見合わせた。
誰かが、明里の買ったおつまみを食べたってこと…?
でも、誰が?
もしこの間、康平が仮に冷蔵庫を開けていたとしても、短期間でこの数のおつまみは食べられない。
誰かがこの部屋にいて、定期的に冷蔵庫を開けていた…――?
「と、とりあえず!いらないものは捨てちゃって、サクッと梱包終わらせちゃお」
明里に言われ、私はモヤモヤを抱えたまま、荷物をまとめる手を進めた。
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