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「……エッチは?」
私は恐る恐る尋ねてみる。
付き合って3ヶ月以上経つし、社会人ならそういうことももっと早くしているだろう。
柊ちゃんは少し驚いたように私を見ると、真面目な顔をして諭すように言う。
「それはダメ。莉子が卒業するまでは。大事にしたいから」
ハッキリ言われてしまい、私は少しむくれる。
でもまぁ今日は制服を着てるから、また犯罪的だと思ってしてくれないのかもしれない。
だから私服の時に今度またトライしてみようと思った。
「あ、そうそう!栞だけじゃなくて、これもあるんだった!」
ふと思い出して私は鞄からある物を取り出す。
それはハーバリウムのキーホルダーだった。
栞を作った時に、スズランをプリザードフラワーにして、それをガラスに閉じ込めてキーホルダーも作ったのだ。
「こっちは柊ちゃんにプレゼント!」
「きれいだな。これ何?」
「ハーバリウムっていって、お花をオイル漬けにしたものだよ。手入れしなくてもお花を楽しめるの!」
オイルによる独特の透明感やお花の浮遊感が素敵で、普通の生花とは違った美しさがある。
「キーホルダーだったら邪魔にはならないし、生活に彩りも与えられるでしょ?」
「ふぅん、これも実用的でいいんじゃない」
「もう〜!だから、乙女心なんだってば!」
「はいはい。ごめんって」
柊ちゃんは目尻を下げて少年のように笑いながら、ハーバリウムのキーホルダーを受け取り、家の鍵に付けた。
「これなら家に出入りする度にいつも視界に入るし、彩りをもたらしてくれるかな」
「うん!いいと思う!」
柊ちゃんとの思い出がハーバリウムの中に詰まっていて、それがいつも彼の身近にあると思うとすごく嬉しかった。
それからの夏と秋は受験勉強で忙しく、柊ちゃんとはなかなかゆっくり会うことができなかった。
柊ちゃんも柊ちゃんで仕事が忙しい時期だったらしい。
土日に時間を合わせて少しだけランチしたり、カフェでお茶したりくらいだった。
会えるだけで「また勉強頑張ろう」と思えたし、頭をなでてもらうと辛い気持ちも飛んで行った。
無事に秋には指定校推薦の校内選考を勝ち抜き、11月に出願と試験を済ませた。
あとは結果を待つのみ。
落ちている可能性もあるから、勉強をやめることはできず、12月の合格発表までは気が抜けなかった。
そして12月、無事に合格通知が届き、私は周囲より少し早く受験を終えることができた。
季節は冬になっていて、柊二ちゃんと付き合って8ヶ月が経っていた。
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