#7. 元カレとの対峙

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#7. 元カレとの対峙

広告代理店主催のあのセミナーから、2週間が経過した。 あれから柊ちゃんとは会っていない。 あの日は「連絡して」と言われて思わず頷いてしまったものの、正気に戻ったらとてもそんな気持ちにはなれなかった。 5年も前に振った元カノと今さら何を話したいというのだろうか。 裏切られて振られた身としては、顔を見れば色々思い出してツラくなるから嫌だった。 ただ、頷いてしまった手前、「やっぱり一度くらい連絡するべきなのかな」と逡巡してしまう。 自分で思っていた以上にきっと悶々としていたのだろう。 「最近なんだか様子がおかしいけど、何かあったの?」 事務所でパソコンを睨んでいたら、向かいの席にいた遠野さんからこんな声をかけられた。 感情を表に出さないように日頃しているのに、まさか同じ部署の先輩に気づかれるとは思わなかったから驚く。 眼鏡をかけ、きっちりと髪を一つに束ね、お堅く神経質そうな雰囲気の遠野さんは、私より3つ上の先輩だ。 真中さんを見て黄色い声を上げる女性社員とは異なり、いつも物静か。 必要最低限の会話しかしてこない人だったから、心配するような言葉をかけてくれるなんて少し意外だった。 「いえ、すみません。大丈夫です」 「それならいいけど。アイスドールの感情が乱れるなんてよっぽどのことかと思って」 みんなが陰で言っているあだ名を、遠野さんは本人である私に向かってサラリと言い放つ。 遠野さんが言うと何の含みもなく嫌味っぽくないから不思議だ。 「遠野さんも、そのアイスドールって呼び名知ってるんですか」 「あら、やっぱり今宮さんも気づいてたのね。みんな陰でコソコソ、バカみたいって前から思ってたの」 小気味の良い毒舌が心地よい。 1年少々の付き合いだが、遠野さんがこんなストレートに物を言う人だとは知らなかった。 裏表のない性格を感じ、俄然信頼感が増してくる。 私はふいに「遠野さんだったらどうするだろう?」と思い、彼女に意見を聞いてみたくなった。 「あの、過去に因縁のあった人から、会いたいから連絡してって言われたら、遠野さんならどうしますか?」 「私なら連絡して会うわね」 ものすごく曖昧にぼやかして聞いてみたのに、遠野さんは詳細情報を求めることなく、即座にスパッと言い切った。 何の迷いもない答えだった。 「それは、なんでなのか理由を伺ってもいいですか?」 「簡単よ。会わなかったら、何の用だったんだろうって気になってずっとモヤモヤするから。白黒ハッキリさせたいの」
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