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遠野さんはなんてことないように理由をサラリと述べる。
彼女曰く、よく分からないグレーの状態で悶々と考え込むくらいなら、たとえ会って嫌な思いをさせられたとしても、その方が気が楽とのことだ。
……確かに。まさに今の私が「何の話がしたいのだろう」って気になって悶々としてる。
「モヤモヤするくらいなら、思い切って会ってしまえばいいんじゃない?仕事にも集中できるようになるわよ」
「……私、なにか仕事でご迷惑かけてます?」
「たまに心ここに在らずに見えるけど、今のところ影響は出てないわね。でもそのうち何かミスやらかしそう」
「気をつけます」
「ああ、そういえば。営業部から連絡があって、リッカビールの宣伝部が主催の催事予約が正式に入ったって。5ヶ月後だそうよ。近々会場の下見に来られるそうだから対応お願いね。……まぁ、こんなふうに仕事は次から次に降ってくるから、早めにスッキリさせてしまったら?」
第三者が聞いたら少しキツめの物言いだと思うかもしれないが、私には遠野さんが心配してくれているのが伝わってくる。
それにまたリッカビールの案件を対応することになるという点も私を後押しした。
柊ちゃんは、施設の利用予約をしてもらっている企業の役員だ。
役員だから会う機会はほぼないだろうけど、今後ももしかしたら仕事で顔を合わせる可能性があるかもしれない以上、気まずくなるのは避けるべきだろう。
だから、意を決して連絡することにした。
夜9時、遅番シフトでの仕事終わり、渡された名刺に手書きされた連絡先へ恐る恐るメールを送る。
シンプルに一文、
”莉子です。連絡しました”と。
すると、驚くことに柊ちゃんからの返信はすぐに来た。
“今どこ?”
“仕事終わりで帰宅するところです”
“ミュンスターホテルのバーラウンジまで今から来れる?”
それはここからほど近いところにあるラグジュアリーホテルだった。
連絡した今日の今日で会うことになるとは想定もしていなかったし、場所もなぜホテルのバーラウンジなのか謎で仕方ない。
ただ、先延ばしにするとせっかく奮い立たせた気持ちをまた立て直すのが難しそうだ。
気は進まないけど、遠野さんの言うようにハッキリさせるためだ。
私は結局”分かりました”と返事を送り、徒歩圏内にあるミュンスターホテルの方へ歩き出した。
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