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「なんで場所がここなんですか?」
「ああ、実はさっきまでレセプションパーティーに参加してて。服装がこんなだから、普通のレストランだと浮くかなと」
そう言われて、柊ちゃんの服装に視線を移すと、光沢感のあるネクタイやポケットチーフ、カフスボタンなどの小物使いがパーティー仕様だ。
確かに華やかな装いのそのスーツ姿は、いつにも増して目を引くものだった。
……それにしても、こんなラグジュアリーホテルになんの違和感もなく溶け込んでいて、すごいなぁ。昔はチェーン系のお店やファミレスによく行く人だったのに。
ますます世界の違う人になったんだということを色濃く感じる。
そんな柊ちゃんとこの場でお酒を飲んでいることに緊張してきて喉が渇き、いつもより飲むペースが早くなる。
私はすぐに2杯目のカクテルを注文した。
水を飲むようにカクテルで喉を潤す。
しばらくなにげない会話が続くが、私はずっとなんで柊ちゃんが私と話したいと言ってくるのかが疑問だった。
5年も前の元カノで、柊ちゃんにとっては数多いる過去の彼女の1人だ。
しかも自分から振った相手なのに。
今やあのリッカビールの御曹司で、社会的地位もある柊ちゃんなら、周囲に女性はたくさんいて不自由しているはずがない。
この際思い切って聞いてみることにした。
「あの、なんで話したいから連絡してきてなんて言ったんですか?」
「言葉通り、莉子と話したかったから。できれば昔みたいに」
耳触りの良い言葉を紡ぎながら優しい眼差しで見つめられ、柊ちゃんは私の方に手を伸ばしてくると、昔のように頭を軽く撫でた。
それは、いとも簡単に過去の幸せだった甘い記憶を蘇らせ、私を激しく動揺させる。
「莉子は今彼氏いるの?」
「……いませんけど?」
「良かった。でもこんなにキレイになってて、きっとこれまで色んな男に好意を寄せられてたんだろうな思うと、正気嫉妬する」
「嫉妬……?」
「俺は今でも莉子のことが好きだから」
ふいに放たれたその言葉に息を呑む。
この人は一体何を言っているのかと正気を疑った。
「……何を言ってるんですか?ありえない」
「ずっと莉子のこと忘れられなかった。だから再会できて本当に嬉しいと思ってる」
「そんな見え透いた嘘言わないで。柊ちゃんが私のこと裏切って振ったんじゃない」
動揺する気持ちとお酒の力もあって、私の口調は乱れていく。
昔のようについタメ口になってしまっていたが、そんなことにも気付かなかった。
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