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「……俺から別れを告げたのは確かにそうだけど、裏切ったって思ってるのか?」
「当たり前じゃない」
裏切ったという自覚がないのだろうかと苛立ちが募り、つい言葉が刺々しくなる。
「………あの時は莉子と別れるのが最善だと思ったんだ。他に方法はなかったのかって後になって後悔したよ」
「なにそれ。あ、分かった。また違う女をつまみ食いしたくなった?元カノなら簡単にヤれるって思ってる?」
「莉子……」
「私としたい?いいよ、ちょうどホテルだし都合いいもんね。私ももう大人だから犯罪的かなんて気にする必要もないもんね」
そうとしか思えない。
今でも好き?
忘れられなかった?
後悔した?
そんな言葉、出まかせに決まっている。
頭では分かっているのに、こんなにも心を乱され、動揺している自分がバカみたいだった。
私はわざと口角を上げ笑みを作り、嫌味っぽく皮肉を口走る。
テキトーな言葉で私を動揺させる柊ちゃんを傷つけてやりたかった。
「私が高校卒業するまでエッチするの待つって言ってたし、今もう卒業したからちょうどいいもんね。それを求めてるんでしょ?私ももう大人だから一夜の遊び相手として少しは柊ちゃんのこと喜ばせてあげられるよ?」
柊ちゃんはその言葉に顔を歪める。
でも怒るでもなく、困惑するでもなく、ただ悲しそうな表情を浮かべて静かに私の手を握ってきた。
そして諭すように言うのだ。
「そんなこと求めてない。昔と同じで俺は莉子のことは大事にしたい。だから莉子も自分のことをもっと大事にしてほしい」
結局何年経っても、柊ちゃんは同じセリフで私を抱かないのだ。
大事にしたいというその言葉は一見私を大切にしているようだけど、言い訳のように聞こえた。
なにも知らなかった頃はその言葉は純粋に嬉しかったし信じられた。
だけど裏切られていたと知った後は、ただ私を抱かないための口実だったのだと思い知った。
高校生と身体の関係を持つというリスクを抱えたくなかったのだろう。
……だって柊ちゃんは私と付き合いながら、本命の女性ともずっと付き合っていたんだから。
私のことはただのお遊びだったのだ。
「ごめん、もう帰る」
私は握られた手を乱暴に振りほどき、お財布から1万円を取り出してテーブルに置くと、柊ちゃんの方は一切見ないでその場を立ち去った。
背後からは柊ちゃんの視線をヒシヒシと感じたが、振り返らなかった。
ホテルからタクシーを拾い、自宅へ向かう。
タクシーに乗っている間はなんとか耐えたが、家に着くともうダメだった。
さっきの出来事が脳内で何度も繰り返され、自然と涙が頬を伝う。
同時に、あの頃の裏切られていたことを知って悲しかった気持ちまで蘇ってきた。
……なにが、「今でも好き、忘れられなかった、後悔した」だ。どの口が言ってるのよ……!
憤る気持ちも溢れ出してくる。
柊ちゃんのことが本当に理解できなかった。
私は悲しみと怒りで泣き崩れながら、過去のことを思い出す。
あの受験合格後から別れまでの期間のこと、
そして別れを告げられたあの日のことをーー。
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