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そして迎えた卒業式。
本当だったら待ちに待った喜ばしい日のはずだったのに、今の私にとっては何の意味もない日になっていた。
ただの高校を卒業する日だ。
式典を終え、卒業生たちは思い思いに写真撮影を楽しむ。
これを機にと告白する人がいたり、後輩に惜しまれている人がいたり、連絡先を交換しあったりとみんな忙しい。
私は友人たちに囲まれて写真撮影に応じながらも、心ここに在らずだった。
そんな私の様子に気づいたのは沙季だ。
私を手招きして他の生徒がいないところに呼び寄せると「どうかしたの?」と聞いてきた。
「………別れた」
「えっ!?」
「柊ちゃんに振られたぁ………」
そう言葉にした瞬間、ここ数日感情を殺して耐えていた私の心が崩壊し、一気に涙が溢れてくる。
決壊したダムから水が溢れ出すように、私の目からは涙がとめどなく流れ落ちた。
沙季は驚きながら私を抱きしめる。
あやすように背中をポンポンと撫でてくれた。
はたから見れば、卒業が寂しくて泣く人に見えるだろうから、卒業式によく見る光景だ。
でも実際は、大好きで大好きでたまらなかった人に裏切られて振られたことが悲しくてショックで私は泣いていたのだった。
ここ数日はショックを受け止めるのに精一杯で、心が正常に動いていなかった。
それが数日経って実感が湧いてきて、人に話した今この瞬間に、一気に襲ってきたのだった。
「つらい、つらいよぉ……。彼氏なんてもういらない」
「莉子……」
「私、この甘ったれた性格も直す。もっと大人の落ち着いたいい女になるっ!」
独り言のようにつぶやきながら沙季に決意を述べる。
大好きだった初めての彼氏に振られ、
失意の中にいた私のこの決意は固かった。
こうして数年後、”アイスドール”と陰で呼ばれる私が出来上がることになるのだったーー。
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