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#9. 元カレの来襲
柊ちゃんとバーラウンジで会ったあの後、彼からは「嫌な思いをさせたのならごめん。でも話したことは俺の本心だから」とシンプルなメールが届いた。
それ以降も、「もう一度会って話がしたい」と何度かメールが来た。
既読スルーしていたら今度は電話がかかってくるようになった。
もちろんそれも完全無視だ。
今後仕事で顔を合わせる可能性を考慮してスッキリさせるために会ったのに、逆にもっと拗れさせてしまった気がする。
思い返せば、言葉も乱れるくらい感情的になってしまっていた。
……どうして柊ちゃんを前にするとこうなっちゃうんだろう。子供っぽい。もっと落ち着いて大人の対応もできたはずなのに。
大人の女性なんて程遠い。
社会人になって大人の仲間入りを果たしたと感じていたけど、相変わらず私は甘ったれだ。
そんな自分が恥ずかしかった。
……それにしてもなぜ柊ちゃんは今さら私にあんなことを言うんだろう。
本心だと言うけどそんなわけがない。
今の彼は既婚者のはずだ。
指輪はしていなかったけど、5年前に婚約者がいたのだからもう結婚していると思う。
きっと10歳年下でちょろい私なら、また遊び相手にするのにはちょうど良いって思われているのかもしれない。
……とにかくもう私には関係ない。しばらく無視していたら諦めてくれるよね。
気を取り直すように私は自分で作ったお昼ごはんのパスタを頬張る。
食べ終えると身支度を整え、遅番シフトに合わせて家を出た。
◇◇◇
「今宮さん、今日はよろしく。先方からもうすぐ到着するって連絡入ったから向かおうか」
施設部の事務所の入り口から顔を覗かせた真中さんが私に話しかける。
今日はリッカビール宣伝部の方々が会場下見に来られる日だ。
本来は私だけで良いのだが、大口顧客ということもあり今後の関係強化のため本件の営業担当である真中さんも同席するそうだ。
私はキーボックスからホールの鍵を取り出し、真中さんに続いてホールへ向かう。
ホール入り口の前で待機していると、施設のエントランスの方から数名の男女がこちらへ歩いてくる姿が見えた。
「いらっしゃったみたいだね。……あれ?今日は2人で来るって聞いてたけど、1人多くなったのかな?」
見える人影は3人分だ。
だんだんと近づいてきて、顔が視認できる距離になった時、その中の1人に目を見張った。
柊ちゃんだったからだ。
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