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それに回答したのは真中さんだ。
「私のような営業の人間は土日休みで9時〜18時勤務なんですが、今宮のような施設運営に携わる部署の者はシフト勤務です」
「なるほど、催事に合わせてってことですね」
「基本は早番と遅番のシフトで、催事の時間帯に合わせて時間調整ってこともありますね。そうだよね、今宮さん?」
真中さんから話を振られて首を縦に振る。
彼が言ったことは合っているから特に補足することもない。
これで話が終わるかと思ったら柊ちゃんはさらに重ねて尋ねてくる。
「遅番だと帰宅時間が遅くなって大変そうですね。何時くらいなんですか?」
「21時終わりです。でもその分朝はゆっくりできるので」
「若い女性が夜道を歩くのは危ないので気をつけてくださいね。ちなみに今日は早番ですか?」
「いえ、遅番ですけど」
世間話をするかのような口調でなにげなく聞かれて自然と言葉が口をついて出る。
ただ次第になんでこんなこと聞かれてるんだろうと不思議に思い始めた。
ちょうどその時、ブーブーというスマホのバイブ音が鳴り響く。
どうやら柊ちゃんのスマホのようだ。
少し離れたところで電話に出た柊ちゃんは、しばらくすると戻ってきて、「急ぎ案件で呼び出されたから」とオフィスに帰るようだ。
宣伝部の方々とともに柊ちゃんを見送る。
ずっと連絡を無視していた罪悪感もあり、姿が見えなくなって正直ホッとした。
……私が無視したから来たのかもなんて考えすぎだったかな。そうだよね。
2人きりになる場面がなかったからというのもあるかもしれないが、特に何も言われなかったことがその証だろう。
「はぁ〜立花本部長なんてめったに話す機会ないから緊張したぁ〜」
「分かります!天上人ですもんね!」
柊ちゃんがいなくなると、野宮さんと保科さんが大きく息を吐き出した。
予想外の登場に驚いていたのは私だけではなく、宣伝部の方々もだったようだ。
「まさかいきなり同行したいって当日言われるとはね。もうホントびっくり!」
「うちの会社の役員が突然来るなんて驚かれましたよね?すみません」
保科さんが私たち施設側の人間を気遣うように申し訳なさそうに私と真中さんを見た。
施設を使う側と使われる側、立場は圧倒的に上だといっても過言ではないのに、こんなふうに相手を気遣える保科さんは大人の女性だなと思う。
先日の株主総会の時の担当だった森川さんも感じの良い方だったし、リッカビールは社員さんの質が高いのだろう。
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