10723人が本棚に入れています
本棚に追加
「確かに驚きましたけど、お目にかかることができて光栄でした。それにしてもものすごいイケメンですね!」
役員である柊ちゃんがいなくなったことで、その場の空気は緩くなり、真中さんもやや口調を崩してフランクになった。
同じく宣伝部のお二人も肩の力を抜いたように話し始める。
「そうなんですよ〜。うちの会社の3大イケメンの1人です。まぁ立花本部長は手の届かない人って感じで崇める対象ですけどね。あ、ちなみにそのうちの1人のイケメンは保科ちゃんの旦那なんですよ!」
「ちょっと貴和さん!私のことはいいですって!」
貴和さんというのは野宮さんのことだろう。
保科さんは照れくさそうにしながら、窘めるように野宮さんの肩を軽く叩いた。
その左手には指輪が光っている。
「はぁ、まったくいい男は早々と結婚しちゃいますよね。そりゃ女が放っておかないですもん。その点、立花本部長が独身なのが不思議なんですよね〜」
野宮さんが嘆くように放ったそのセリフに私は耳を疑った。
ありえない一言が含まれていたからだ。
……え、独身?柊ちゃんが……?
そんなはずはない。
指輪をしていないのは、きっとなにかしら仕事の都合があるとかの理由で、実際は既婚者のはずだ。
それを社員さんは知らないだけではないだろうか。
だって5年前の時点で婚約者がちゃんといたのだから。
「へぇ、立花本部長は独身でいらっしゃるんですか!あの容姿と社会的地位なら選り取り見取りでしょうに」
「ホントそうですよ。でも女性に興味ない感じでいつも素っ気ないんですよね。それこそさっき今宮さんに本部長から話し掛けているのを見て驚いたくらいです」
その野宮さんの言葉を合図にしたように、みんなが私の方を見る。
急に視線が集まり居心地が悪い。
「……たまたまですよ。それに、きっと指輪をされていないだけで既婚者なんじゃないですか?」
誤魔化すように答えながら、ついでに気になっていることを言ってみた。
すると野宮さんはやけに自信満々な顔をする。
「いえ、独身なのは確実です。何しろ本部長のお父様である社長自らが、息子がなかなか結婚しないって嘆いていらっしゃいましたから」
「私もそれ聞きました!役員報告の会議でおっしゃってましたね」
保科さんまで追随するように頷く。
家族がそう発言するのなら事実なのだろう。
……柊ちゃん、あの女性と結婚しなかったんだ。なんで……?
最初のコメントを投稿しよう!