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『俺は今でも莉子のことが好きだから』
『ずっと莉子のこと忘れられなかった』
急に先日言われて即座に切り捨てた言葉を思い出す。
……あの言葉は本当に本心だったっていうの?ううん、そんなはずない。まさかね。
浮かんできた考えを否定する。
耳触りの良い言葉に惑わされてはダメだ。
信じたら5年前のように傷つくことになるのだから。
「あの、お二方ともお忙しいと思いますので、そろそろ下見の続きを進めるのはいかがですか?」
「あ、確かにそうですね!」
「はい、続きのご説明お願いします!」
柊ちゃんに関する話題を繰り広げていたのを打ち切るように、私はやんわり下見を促す。
ハッとしたようにすぐに仕事モードに切り替えた野宮さんと保科さんは、その後は「さすができる女は違うな」と思わされるようなポイントを押さえた確認をしていく。
15分くらいで下見は終了となり、お見送りをして事務所へ戻った。
その日の21時過ぎ、私は遅番シフトを終えて、最寄りの駅へ向かって歩いていた。
明日は土曜日だけどシフトは入っていない。
平日休みが多い中、久しぶりの週末休みだった。
金曜日の夜ということで、飲みに行く人も多いのか平日の同時間帯よりも道ゆく人の数が多い。
たまには高校時代からの友人である沙季と飲みに行きたいなぁと思いながら歩道を歩いていると、車道を走る車がふいに路肩に停車した。
スーッと近づいてきて、まるで私の横に止まるように。
そのシルバーのベンツに全く見覚えはないから気のせいだろうと通り過ぎようとしたら、歩道に面した助手席側の窓ガラスが開いた。
「莉子」
車の中から聞こえてきたのは聞き馴染みのある低い声だ。
思わず立ち止まり車の中を覗き込むと、運転席から柊ちゃんがこちらを見ていた。
「乗って」
「えっ……?」
「路肩にあまり長く停車していると邪魔になるから、ともかく乗って」
一瞬躊躇したけど、歩道を歩く周囲の人々が何事かというように注目し出したのが気になった。
人目を避けるように渋々言葉に従い助手席に乗り込む。
ドアを閉めるやいなや、車は路肩から車道へと発進しどこかへと向かい出した。
「……どうして?」
「今日は遅番で21時頃の終わりだって言ってたから」
そのために昼間下見の時に何気なさを装いつつあんな質問をしてきたのか。
特に何も言わずに途中で帰って行ったから安心していたが、どうやら見込み違いだったようだ。
逃げ場のない車の中、突然のことに心は激しく動揺する。
それを必死に、必死に、
私は落ち着かせようとしていたーー。
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