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莉子と出会ったのは、食品会社で働き出してまもなく6年目、28歳になる年の頃だ。
新幹線で隣の席になった莉子は、思っていることがすぐに顔に出るくらい素直で屈託なく笑う子だった。
俺が話すことを真剣に聞いてくれて純粋に尊敬の眼差しを向けてくるのがくすぐったかった。
可愛い、また会いたい、と思うのに時間はかからなかった。
新幹線を降りて別れた際、思わず追いかけて連絡先を聞いたが、あんなことをしたのは後にも先にも莉子だけだ。
その後デートに誘い、会ううちにどんどん惹かれていった。
大学生だと思っていたら、なんと高校生だったと知った時は驚いたが、その時にはもう莉子を自分のものにしたくてしょうがなかった。
付き合うようになってからもその想いはどんどん加速していく。
莉子はいつも全身全霊で自分の気持ちを表現してくれる。
言葉からも、態度からも、表情からも、俺を見つめる瞳からも、何の濁りも含みもない”好き”という愛情を俺に贈ってくれた。
もともと外見も可愛いかったのだが、恋する女は綺麗なるというのを体現するかのように、日に日にその愛らしさは増していった。
可愛いだけではなく、受験にも、バイトにも、そして俺に対しても、何事にも一生懸命なところも好きだった。
正直、これまでの人生、恵まれた容姿と家柄のおかげで女性には不便しなかった。
中学の時に初めて彼女ができて以降、莉子に出会うまで割と途切れなく彼女がいた。
彼女たちは、俺の顔か、家柄か、なにかしら含みがあって俺を好きだと言っていた。
それも俺の一部だから別に悪いことではないと思う。
だが、どこか心の中で俺自身を見てくれていないと感じる部分があり、少し冷めた目で彼女たちを見ている自分がいた。
でも莉子は違う。
純粋に俺自身を慕ってくれているのが分かるのだ。
しかもそれを100%の力で伝えてくれる。
……ああ、莉子は特別だ。他の女とは違う。
そう気づいたのは、付き合い出して割と早い段階でのことだった。
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