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莉子との付き合いは大きな波風もなく順調だったし、会うたびに元気がもらえるような感じがした。
唯一キツイことと言えば、莉子に手が出せないことだろう。
18歳以上の相手とは合意の性行為であれば問題ないのは分かっているが、さすがに高校生のうちは控えたいと思っていた。
莉子は特別だから大事にしたい。
別れるなんてありえないからゆっくりでいい。
そう考えていた。
とはいえ、俺も健全な普通の男だから、莉子から「エッチしよ?」と可愛く迫られると、理性がグラグラ揺れた。
それを保っていられたのは、ひとえに10歳年上の大人の余裕を見せたかっただけだ。
そんな自分の理性と戦う日々の終焉が見えてきた頃、ある日突然実家に呼び出された。
社会人になって以来、収入の範囲内で一人暮らしをしていたし、30歳までは立花家とは距離を置きたかったから実家にはほとんど顔を出していなかった。
久しぶりに会った父は体調を崩しており、顔色が少し悪かった。
「約束は30歳だったが、今すぐ会社に入れ」
顔を合わせて早々、父は突然約束を反故すると言い出した。
特に病に侵されているわけではないが、自分の体調が最近思わしくないから、今後を見据えて早めに手を打ちたいということだった。
まぁ言わんとすることは理解できる。
だが、すでに兄の慧一が会社で活躍しているのだから後継者という意味ではそれで十分ではないかと思った。
今の仕事が楽しいのもあり、約束を反故にされるのは納得がいかなかった。
すると父は鋭い目でこう切り出してきた。
「お前、高校生と交際してるんだってな?」
秘書に俺の身の回りを探らせたという。
勝手に身辺を探られるのは気分が良いものではないが、父が述べたことは事実だから俺は黙って頷いた。
「別れろ。あの子の父親の会社はリッカビールの下請け企業だ。圧力をかけてやってもいいぞ。そうすれば仕事がなくなり、倒産やリストラということになるだろうな。……柊二、あの子とは別れて大人しく会社に入れ。慧一と一緒に会社を支えてくれ」
とんでもないことを言われ目を剥く。
会社に入ることだけでなく、莉子と別れることも求められているのだ。
なぜかと問えば、「10代と交際しているなんぞ、立花家の人間として外聞に悪いから」だという。
……圧力をかけるとか言ってるが、どうせ口で言っているだけだ。知ったことか。
その日は父に反発し、その場をあとにした。
会社に入るつもりも、莉子と別れるつもりも毛頭なかった。
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