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父から言われたことを無視し続けていたそんなある日、大学受験を終えた莉子がコンビニでのバイトを始めた。
俺の家の最寄駅近くのコンビニを選んだのは、少しでも会えたら嬉しいからという莉子らしい可愛い理由だ。
そこまで好きだと思われて嬉しくないはずがない。
仕事終わりに寄るようになり、少しの時間でも莉子の顔を見れることに満足していた。
ただ、コンビニは変な客も多い。
心配な思いもあって尋ねたことがキッカケで、莉子からあることを知らされた。
それは俺の知り合いだという40代くらいの男が莉子に話しかけて、色々聞かれたという話だ。
……父が言ってた、俺の身辺を探っている秘書だ。監視してるのか。
瞬時にそのことを悟った。
こうなってくると、俄然父の言葉が真実味を帯びてくる。
本気で莉子の父親の会社に圧力をかける気ではないだろうか。
なんだったら莉子が受かった大学へは出資していたはずだから、そちらに何かしら手を回すという可能性もある。
思わず背筋が寒くなった。
その場は平然を装ったが、すぐに実家に足を向け、再び父と相対した。
「彼女と別れなければ、彼女の父親の会社に圧力をかけるというのは本気ですか?」
「二言はない」
「俺が会社に入るのを了承するだけではダメなんですか?」
「会社に入るのは決定事項だ。そして立花家の人間として会社に入るからには、身辺を整理する必要がある。10代の子と付き合っているなんぞ弱味にもなりかねないことは言語道断。あの子と別れることは必須だ」
「つまり会社へ入ることも、彼女と別れることも絶対で、譲るつもりも交渉の余地もないと?」
「その通りだ」
鋭く見据えられた父の目からは本気が窺えた。
こういう目をした時の父は容赦なく何でもやることを知っている。
「…………分かりました」
絞り出すように一言述べ、その場を辞す。
家に帰って一人になると考えるのは、莉子の笑顔ばかりだ。
会社に入るのはまだ受け入れられる。
約束を反故にされ予定より早まるが、遅かれ早か立花家に生まれたからにはそういう宿命だということは理解している。
だが、莉子のことはそうではない。
別れるなんて考えたこともなかった。
今や莉子の存在は、俺の中で相当大きな部分を占めている。
誰にも代わりは務まらない特別な存在なのだ。
……でも、だからこそ莉子を自分の家のゴタゴタに巻き込みたくない。
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