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入学式が終わって・・・・・やっぱりあいつを思い出す。
4月7日入学式当日、俺は買ったばかりのスーツを着た。
白いワイシャツに紺のストライプのネクタイ、足元はピカピカの革靴・・・・少しだけ大人になった気がした。
両親も今頃は会場に向かっているはず・・・・・晴れの姿を見てもらいたいと思った。
そう言えばあいつもきっと今頃はスーツに身を包んで入学式に行くのだろう、背の高いあいつはきっとスーツが似合うだろうな・・・・・大学でも女子学生に取り囲まれているのだろうか?
居もしないあいつの姿が目に浮かんだ、もうあいつを見なくなって2か月になる、最後に見かけたのは大学受験の少し前、職員室から出てきた時だった。
職員室を出ようと扉を開けた時、入ってくるあいつとぶつかった。
顔を上げてあいつだと分かった時、心臓の音が聞こえそうなほど鼓動を始めた。
逃げるようにその場を離れて教室に着くと、席に座って荒い息を沈める為に机に顔を伏せた。
久しぶりに真正面から見たあいつの顔は眩しいほどカッコよくて、まるで知らない人のようだった。
ずっと一緒にいたあいつが他人のようで、何年もそばにいたのが嘘のように今では俺とあいつの間には何もなくなっていた。
入学式が終わって各学部の学科ごとに別れて挨拶をした、これから4年間一緒に学ぶ仲間。
皆希望に溢れた明るい顔をしている、知ってる奴はいなかったけど仲良くなれそうな気がした。
必要なものを揃えて明日からの授業のスケジュールを確認して、講義のある校舎や場所の確認、新しいことが始まるワクワク感で気持ちも高揚していた。
新入生を勧誘しようとサークルや同好会の誘いなど期待と希望がないまぜになった毎日が始まった。
俺は毎日新しい何かを求めて大学へ通った・・・・・・親しい友達もできた。
女子とも話した・・・・・・学食でみんなと食事もした。
俺が求めていた新しい何かがそこにはあった。
朝起きてパンと牛乳で食事を済ませて、歩いて学校まで行く。
知った顔はまだ少ないが、寂しさは感じない。
同じ学科の新富とは気が合った、地方から出てきた彼は俺のすぐそばのマンションを借りていて、帰りも一緒に帰ることが多くなった。
新富も自炊は苦手らしく、コンビニの弁当や定食屋で食べることもあった。
弁当を買って俺のマンションで一緒に食べる、新富は賑やかでよくしゃべるし人懐っこくて、よく気が付くいい奴だった。
これまで彼女がいたことはなく、俺とそんな話をしているときに俺の好きなタイプを聞いてきた。
好きなタイプと言われても・・・・俺はずっと葵生しか見ていなかった。
俺の好きなタイプは葵生で好きな人も葵生・・・・・女子と付き合っていた時も好きなのは葵生だけだった。
新富は黙った俺に何か気が付いたらしく、黙って俺を抱きしめてくれた。
「浅見君は好きな人が居るんだね、でもその人とはうまくいかなかったの?」
「まぁな・・・・・うまくいかなかったって言うか、好きなのは俺だけだったんだ」
「そう・・・・・でも今も好きなんでしょ」
「うん」
「今はどこにいるの?」
「知らない」
「俺浅見君の事好きだよ」
「ありがとう」
「意味わかるよね?」
「意味?」
「浅見君が好きだった人は女?それとも男?」
「それは・・・・・・」
「だったら俺のこと好きになってほしい」
そう新富に言われたとき、俺は気づいた・・・・・俺は葵生が好きだったんだ、葵生が男だとかそんなことは考えていなかった。
新富に言われて男が好きなんじゃないとはっきりわかった、新富の事は友達としか思えない、好きだと言う感情はもてないと思った。
新富にははっきりとそう言った、俺の言葉に新富は「正直に言ってくれてありがとう」と言った。
新富はいい奴だ、だからといって葵生を好きになったように好きにはなれない。
俺に取って葵生はやっぱり特別な存在だった。
逢いたかった・・・・・昔のようにあいつと話しがしたいと思った。
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