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十八、祝福
翌年の祝祭。
ニコニコと笑うウルカに案内をされ、ルティシータとイルセンは謁見の間へと入った。立会人の誰もが目を細めて迎える中、待ち受けるフィズの元へと向かう。
立会人などからは「あの鋭い眼光で有名な『雷電』も、目尻が下がりっぱなしですなぁ」といった声までもが聞こえてきた。
隣を歩くイルセンに「目尻が下がっているそうよ」と伝えると、彼は嬉しそうに腕の中の膨らみに頬ずりをして「こんなにも愛しい子を前にすれば、誰でも下がってしまうよ」と言って、生まれたばかりの我が子に笑いかけた。
「ルティシータお姉様、シャダール将軍、早く私にもその子を見せてください」
フィズが、待ちきれないとばかりに寄って来る。
「お姉様、お体はどうですか?」
「おかげさまで産後の肥立も良くて……可愛い娘と、目尻を下げる主人の姿に毎日癒されているわ」
「ふふ、簡単に想像がつきます」
「このまま体調が良ければ、いずれ女王としての復帰も近くなるはずよ」
そう言った途端に、フィズが厳しい目を向けてきた。
「お姉様。産後に無理をしてはならないと多くの母親達に散々仰っていたのは、どなたでしたか? 微力ながら私も代理女王としてなんとか日々やっておりますので、まだまだ休んでいて大丈夫ですよ。焦って復帰するよりも、まずは体を労って家族の時間を大切にしてください。お姉様には特に幸せに過ごしてもらわないと!」
「ありがとう、フィズ……とても頼もしい言葉だわ」
これまでの王女達の婚姻後の形式は、母や叔母のように夫の姓は名乗らずに王女として王城で暮らしながらの別居婚が主なものだったが、ルティシータとイルセンは王城とシャダール家それぞれに部屋を設けて、生活を共にしていた。
婚姻後すぐは王城にて新婚生活をしていたが、産前からシャダール家に拠点を移して、女王の政務は側近のフィズに代理を頼んでいたのだった。
しばらくすれば再びイルセンと共に王城に戻り、たまの休暇にはシャダール家でゆっくりと過ごそうと考えていた。
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