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「キッシーは、忘れ物をいつも律儀に落とし物ボックスに入れて帰ったんだよね?で、朝来たらボックスの中に鍵はない、と」
「う、うん。最初の日の翌日だけは休み時間にチェックしたけど、それ以外の日はアサイチでチェックしてるよ。それで、鍵がないから回収していったのかなーって」
「それがおかしいんだってば。キッシー、真面目だから誰より早く教室に来てるじゃん。時間からして、教室の鍵が開いてすぐの時間で、いつも他の子はまだ誰も来てないんでしょ?……ボックスに入れた鍵、いつ、どうやって回収したの。先生が鍵開けるまで、教室は鍵かかったてたはずだよ」
「あ」
言われてみれば、そうだ。ボックスから鍵がなくなっていたから、本人が回収したとばかり思っていたが。
そもそも、回収できるタイミングがほとんどないではないか。
「トドメがさ。キッシーが、全員の連絡先をスマホに登録してるってことだよ」
段々と血の気が引いてくる私に、舞香ちゃんは続ける。
「机の上に忘れ物してますよーって、何でその子に連絡いれなかったの?ろくに話したことがない子のことでも、朝の会で褒めるようなキッシーが?メール一つ送らなかった理由は?」
「そ、そういえば……」
「ていうか、キッシー朝の会でさ、鍵の忘れ物がありますーって言ったことはあるけど、“誰が忘れていったのか”を一度も言ってないんだよ。だからあたしもおかしいなって思ってたんだ。机の上にあったんだから、その机の人が持ち主のはずなのに。ねえ」
彼女はぐいっと顔を近づけてきた。
「その鍵、誰の忘れ物だったの?」
私は慌てて立ち上がり、窓際の一番後ろの席へ向かった。そして、小さく悲鳴を上げる。
最初に鍵を見つけた時。この机には、持ち主がいるとばかり思っていた。机の中のお道具箱にもちゃんと名前が書いてあると認識していたのだ。なのに。
思い出した。
思い出してしまった。
窓際の一番後ろの席は今、誰も使っていないということを。入っていると思っていた机の中はからっぽで、お道具箱らしきものは見つからなかった。
確かにあの時は、クラスメートの誰かの席だとばかり思い込んでいたのに!
「キッシー」
追いかけてきた舞香ちゃんが、険しい顔で言った。
「とりあえず、先生に相談しよう。そんでもってしばらく……その鍵は、無視しよう?嫌な予感がするから」
結局。
先生に相談すると、その机は撤去されることになり。そのまま、鍵が出現することも、私の帰りが不自然に遅くなることもなくなったのだった。
気になるのは、先生の反応である。私が鍵のことを相談すると、そんなオカルトな話を疑うこともせずに信じて、すぐに撤去に動いたのだ。
私が尋ねると、彼女は一度だけこう答えたのだった。
『人の忘れ物には、触らない方がいいものもあるの。……貴女は何も、知らなくていいわ』
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