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わすれもの。
これは、私が小学四年生だった時の話。
当時、私は学級委員というものをやっていた。眼鏡をかけた、堅物真面目系女子。きっと周囲にはそう思われていたことだろう。
ついでに、正義感も人一倍強い自覚があった。
掃除は誰よりも丁寧にやることを心がけていたし、誰かが喧嘩していたら真っ先に仲裁に入った。悪いことをしようとしている男子や女子を見かけたらすぐに注意しにいった。人によっては、大層ウザい女だったことだろう。
それでも私がいじめられなかったのは、今思うとそんな私を支持してくれる子達がスクールカーストの上層にいたことと、先生の覚えがめでたかったからだと思われる。ちょっと頭の良い子達は、“こいつを敵にまわすとそういう連中がみんな敵になって面倒くさい”とでも考えていたのだろう。断じて私自身の力ではなかった、と今なら分かるのがなんとも複雑だ。
さて、そんな私が当時一番力を入れていたのが、忘れ物や落とし物をなくすこと、だった。
この二つは違うように見えてよく似ている。誰かが教室や廊下に忘れていったものは、そのままどっかに行ってしまって落とし物ボックス行きになることが非常に多かったからだ。
だから私は、帰りの会の時にみんなの前で“落とし物ボックス”を作ることを提案した。これは、実質“忘れ物ボックス”と同義でもある。明らかな落とし物、忘れ物を見つけたらみんなで積極的に、教室の後ろに置いたボックスに入れてあげましょう、というものだ。
ボックスの中にまとめて入れることで、クラス全体の“失くし物”をなくそうという試みである。
『物をなくすことが減れば、宿題を忘れる人とか、大事な勉強道具がなくなって困る人とかが減って凄く便利だと思うんです』
そんな言葉で、みんなに提案したように思う。ボックスは私が手作りすること、を織り込めば誰も反対しなかった。もちろん先生もだ。
いかんせん当時のクラスにはおっちょこちょいが多くて、先生も困っていたからだろう。
『じゃあ岸田さん、お願いね』
『はい!』
そして私は、落とし物ボックスを作って教室の後ろの黒板の前に設置したのだった。
ここまでが、話の大前提である。
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