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落とし物ボックスは、それなりに役立っていた。ワルガキ男子どもを中心に、廊下に筆箱を落としたまま帰る奴だとか、廊下に定規が落ちていて誰のものかよくわからないとか、そういうことも珍しくなかったからである。
教室の前の廊下に落ちているものはうちのクラスだと判断して、私は見つけ次第落とし物ボックスに入れることにしていた。これで、何かをなくした!忘れた!という人がとりあえず落とし物ボックスを見れば見つかるようにできると考えたからだ。
持ち主がわかっているものは本人の机の上に置いておくという選択肢もあるけれど、名前がついていない持ち物も少なくない。教室に近いものは落とし物ボックスへ、そうでないものは職員室に届ける。落とし物ボックスを設置して一週間もすれば、それが私の日課になっていたのだった。
これでみんなのなくす物が減れば、それで助かる人が増えるはず。ならこれはきっと良い事であるはずだ、と。まあ、ちょっとした拘りのようなものだったと言ってもいい。
「ん?」
そんなある日のこと。
先生に呼ばれたせいで帰りが遅くなった日。私が教室に戻ってくると、既に生徒は誰もいなくなっていたのだった。自分もそろそろ帰ろうと思ってランドセルを取りに行ったところで、私はあるものに気が付いたのである。
それは、窓際の一番後ろの席。
その席の上にぽつんと置かれている――キーホルダーのついた家の鍵、である。
「ちょ、ちょっと!」
流石に焦った。これはひょっとしてひょっとしなくても、かなりまずい忘れ物というやつなのではないか。今日即座に困るタイプの忘れ物だろう。私は慌ててその席に駆け寄った。机に書いてある名前を見て眉をひそめる。よりにもよって、まったく接点のないクラスメートだった。今のご時世、小学生も普通にスマホを持っている。が、この人物とは連絡を取り合ったこともない。忘れていますよ、とメールをしてあげることもできなかった。
どうしよう、と私はしばし考え込む。
ふと、時計を見るともうすぐ四時になるという時間帯だった。四時になると先生や用務員さんが見回りに来て、人がいない部屋は施錠して回るはずである。
裏を返せば、この鍵もこのまま教室にあれば、きちんと密室に保管されてある意味安全ということではなかろうか?
――職員室の落とし物ボックスは、かなりぐっちゃぐちゃだしなあ。
悩んだ末、私はその鍵を教室の落とし物ボックスに入れた。ウルトラマン?か何かに出てくるものだろうか。怪獣のストラップがじゃらん、と音を立てる。
明日朝の会で一応周知しよう。私はそう心に決めて、その日はそのまま帰宅することにしたのだった。
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