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学校の朝の会、帰りの会ですることは決まっている。むしろ、我がクラスの恒例のようなものだった。私が毎日先生の前で手を挙げて、みんなに注意して欲しいことや、逆に良かったことを報告するのである。
今思うと、そういうことを毎日やる私はある意味有名人だったことだろう。当時は、そういう正義感を発揮するのが良い事だと信じて疑っていなかったのである。
「昨日、掃除の時間なんですが」
ちなみに、中学生になってから背が伸びたが、小学生の頃の私は体が小さくて非力だった。
「重たい机があって運ぶのに困っていたら、泉田君が私を手伝ってくれました。凄く嬉しかったです、ありがとうございます」
「こ、こっちこそ、ありが、とう……」
私が言うと、泉田少年はもじもじと顔を赤らめた。クラスで滅多に喋ることもない、接点もない生徒の一人。それでも私は学級委員として、一ヶ月も経った今ではちゃんと全員の顔と名前を認識している。良いことをした人のことは、ちゃんと名前を呼んで褒めてあげたいという気持ちが強かったためだ。
「凄いねえ、キッシーは」
後ろの席の友人である舞香ちゃんが、皮肉ではなく心から感心したというように声を上げた。
「一カ月で、本当にちゃんとみんなの名前覚えたんだ。あたしは全然なのに」
「こういうのは得意な子と苦手な子がいるから。私はちょっと得意ってだけだよ」
明るくて元気、優しい舞香ちゃんのことが私も大好きだった。彼女に褒められて悪い気はせず、私は薄い胸を張ってみせたものである。
「あ、舞香ちゃんメアド変えたって言ってなかったっけ?後で教えてね」
「あ、忘れてた。後で送るわ」
「よろしく」
小声でそんな会話をして、席につく。ちょっとした雑談も、先生は咎めずにこにこ笑いながら見守ってくれた。自分で言うのもなんだが、普段の私の素行が評価されていたことと、生徒が生徒を褒めるような言葉を遮るつもりがなかったからだろう。
ちょっと舞い上がってしまった私は、昨日の落とし物ボックスのことをすっかり忘れてしまっていた。授業中に思い出したため、慌てて休み時間にボックスを確認することになる。
ボックスの中を見ると、からっぽだった。どうやら、鍵を忘れていった生徒が自分で回収していったということらしい。
――良かった。ちゃんと持ち主の手に戻ったんだ。
私は心底安堵していた。そう。
放課後、また同じ机の上に、まったく同じ鍵が忘れられていることに気づくまでは。
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