side ミュリア

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「……殿下、なぜここへ?」  致し方なく振り向くと、舞踏会の恰好のまま追いかけてきたであろう殿下の姿があり、私は唖然としてしまった。  殿下……貴方は王太子です……着替えぐらいしてください。 「追いかけてきた」 「見たらわかります。なぜ、追いかけてきたんですか?」  しかも、お供も最小限……大丈夫? 「婚約者……だから」 「婚約者? 国民の手本となるよう言葉は正確に使いましょうね」  優しく諭すと、口を歪め、不本意そうにボソリと言い直す。 「こ、婚約者…………だったから」 「はい正解。で、元婚約者を追いかけてくるなんて、暇なんですか?」  思わず聞いてしまう。こんな辺境の地に現れるなんて、おかしいでしょ……仮にも王太子なんですよ? 「ずけずけ言うな。あのな、手違い。手違いなんだよ」  焦った顔で一生懸命説明する殿下に、ニコニコ笑顔を向ける。 「みたい……ですね。でも、書類は受理されましたよ?」 「だから、それも手違いで!!」  「王宮の使用人、手違い多くないですか? ……ポンコツ?」  私は呆れながらも、そのポンコツのおかげで婚約破棄が成立したわけだから……うん、感謝しなきゃね。ポンコツ、万歳。 「それに関しては、俺も同意見だ……あのな、俺はお前の身を案じてだな。仕方なくあんな事を……」 「事情は聞きました。殿下には感謝しております。しかしですね。あれぐらいの脅迫状、私、日常茶飯事でしたわよ?」 「え?」  他愛のない世間話のようにサラッと伝えると、殿下はこれでもかと思うくらい目を見開いた。 「殿下、おモテになりますもんね。私宛の脅迫状で本が1冊作れそうですわ」 「そ、それで! お前は大丈夫だったのか!?」 「はい」 「それは、良かった……」  ホッとした顔の殿下に私はクスリと笑いかける。 「ええ、妃教育の賜物(たまもの)でしょうか? 私の事を大人しいご令嬢だと勘違いをなさっておいででしたので、しっかり、きっちり、私の事を教えて差し上げましたわ。ふふっ」 「……あ、ああ…………は、ははは」  その時の事を思い出し微笑むと、私から視線を外した殿下は何もない空間に向かって乾いた笑いをした。  今、うわぁ……脅迫状出した令嬢、可哀想だな……と彼女達に同情してますね? さすが殿下は私の幼馴染です。よくわかってらっしゃる。
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