逃げた本体

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逃げた本体

「やはり日本の警察は優秀だな。ろくにデータも取れないうちに撤収させられるとは」 「しかし、オワンクラゲの発光細胞をヒトの染色体に融合させる実験には成功しました。あとはこの発光細胞をベニクラゲの細胞に置き換えれば……」  言いかけた白衣の男を鋭い眼光の老人が怒鳴りつけた。 「呑気なことを! 被験者が三人とも死んでいては本末転倒だろう? この実験の最終目的はベニクラゲの遺伝情報を人間に適応させ不老不死の肉体を作ることなんだぞ!」  薄暗い部屋の中、老人は激高している。 「こ、国外で大規模なサンプリングを行っています。心臓発作の原因追求はすぐに……」 「一年だ。あと一年以内に結果を出せ! 薬が完成しなければどうなるか、分かっているだろうな?」 「か、かしこまりました」 怯えて声を震わせながら白衣の男は部屋を出ていった。 「条件を合わせなければ予想外のリスクを背負うことになる。ベニクラゲの臨床段階に入ったら、また私と同じ条件を満たす日本人で検証をせねばなるまいな」  老人は大きく息を吐くと、グラスの水で抗血圧剤と抗血栓剤を喉に流し込んだ。
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