①結ばれた糸

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結とたまに会うようになった。 大抵、どちらかの家でご飯を食べてお酒を飲んでいる。それはだいたいどちらも次の日が休みの日。僕の家の時は、僕が先にお風呂に入って、それから結がお風呂に入って2人でベッドに入ってどちらかが眠るまで話をする。結の家の時は、お風呂の順番が結が先になる。 2人で一緒のベッドに寝るのは白鳥園にいた頃からしていたことだった。ベッドは部屋に2つあったけど、入所したての頃に僕が寝つきが悪くて布団の中で体勢を色々変えていたら結が添い寝してくれたのが始まり。それから一緒に寝るのが当たり前になった。結の体温や寝息は僕を安心させてくれた。 何度目かの結の部屋。一緒にベッドに潜り込んでいる時だった。 「俺、白鳥園出てから、ずっと大事なもの忘れてきたって思ってたんだ。」 「え。部屋に結の忘れ物はなかったよ。」 「そう…1番大事だったって気づいたのは1ヶ月くらい経ってからだったかな。」 「僕が、出てくる時部屋を空っぽにしてきたけど…。」 結に抱きしめられた。 小さい頃、結は僕を抱きしめて頭を撫でて眠らせてくれた。高校に進学しても、冬の寒い日は、2人で体を寄せ合ってベッドで布団にくるまっていた。 だから、ごく自然で当たり前のこと。 「俺の大事な忘れ物は糸だよ。」 「え。」 結が白鳥園を出てから全く連絡も来ないから僕のことなんかすぐに忘れたんだと思っていた。どうせだったら何かひとつくらい僕に思い出の品物を置いていってくれたら良かったのにと思ったほどだった。 「俺、高校くらいから、糸が好きだった。でも、きっとそんなこと言ったら嫌な気分になるだろうなって思ってずっと言わなかったんだ。」 結から、突然告白された。僕の胸がドクンと鳴った。結が、僕を好き…だった。 「…今は?」 結を見つめて試しに聞いてみた。抱きしめられた意味を確かめたかった。 「糸。」 「え。」 「……もう寝よ。」 結が瞼を閉じた。寝落ちするみたいに。力が抜けていくのがわかった。結えが目を開けて、僕の頭を引き寄せて 「糸、好き。」 唇が重なった。子どもの頃、唇を舐められるのは平気だった。でもコレは意味が違う。唇が離れて結が薄く笑う。 「おやすみ」結は寝落ちしてしまった。規則正しい寝息が聞こえてくる。 僕は、結の気持ちにどう答えたら良いんだろう。僕は結を恋人のように思ったことがない。大事で好きではあるけど兄であり、親友であるように思っていた。 眠ってしまった結の頭を撫でてみた。ずっと僕の頭を撫でてくれていた結のように。
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