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いつも結は、お風呂上がりに昔の映画を見ている。80年代ごろに流行ったような。勉強しているのかと思ったけど、単純に好きみたいだ。アマプラじゃなく、DVDをわざわざ借りてくるのだ。
僕には全くわからない日本映画も見ていた。
結が、映画を見るのは共有のリビングじゃなくて、結の部屋だった。だからその時間、僕は1人で部屋でごろごろして、気がついたら眠っていて朝だったことが何度もあった。
けれど、今日に限っては寝つきが悪い。部屋を暗くしても落ち着かない。ひとりぼっちみたいに、物足りなさを感じる。
キッチンで水を飲んだ。寒くて寂しい気分だ。寒いのも寂しいのも苦手だ。結の部屋から灯りが漏れていて微かに音が聞こえる。昭和のトーキー映画の音がする。
僕も結を見習って、映画を勉強しないと。結が日本映画なら僕は洋画を。リメイクされる前のトップガンとか見るべきなんじゃないか。でも、いまいち興味が湧かない。じゃあ、それとは違う名作…ウエストサイドストーリーとか…。
結が、部屋から出てきた。
「あら、起きてたの?」
僕の頭に手を伸ばしてわしゃわしゃ撫でる。一瞬で体の力が抜ける気がした。
「なんの映画見てるの?」
「小津安二郎。糸も見る?」
僕は首を横に振った。
「見ても、わかんないからいい。」
「寂しそうな顔してるね。」
「寒くて。…それだけ。」
結も、水を飲んだ。
「…じゃあ、おいで。」
「え?」
コップを洗って手を拭いてから、僕の手を握った。
「糸、手冷たいね?」
「水飲んでコップ洗ったから。てか、結も。」
「俺の部屋においで。」
「え。」
「あっためてあげる。」
結はいつも僕を誘うのが上手だ。部屋は別々にした方が良いとそう言ったことを僕は恥ずかしく思った。寂しいって思っていたと結には、すぐ分かってしまう。
結の部屋に入ると、結がベッドに潜って僕を手招きする。一緒に布団にくるまった。僕は結に背を向けている。
「あったかい?」
「あったかい。」
「眠れそう?」
「眠れ…そう。」
結が、リモコンで灯りを消した。僕の頭を優しく撫ている。ふわふわした気分になった。
「結」
「ん?」
「結が1番好きな映画って何?」
「ニューシネマパラダイス。糸は?」
「僕?……え、ファインディングニモ。」
「いいね、親子の絆。」
「……親子…お魚かな。」
「お魚か。ふふ。かわいいねえ。」
白鳥園で結が初めて添い寝してくれた夜を思い出した。抱きしめてくれてあったかくて安心する。ゆっくり眠気がやってきて気がついたら朝だった。
「子どもの頃、結が僕の安心の全部だった。」
「ん?」
「隣にいてくれると、それだけで安心したんだ。」
「…そう。」
「うん。」
「俺は、糸が来てくれて嬉しかったな。勝手に弟だと思って、大事にしようって決めたんだ。」
包み込むように抱きしめられた。
「僕、結がいないと寂しい。ずっと一緒にいるけど、寝る時もやっぱ一緒がいい。」
「糸は寂しがりやだもんな。」
「個室があった方が良いなんて言ったこと後悔してる。1人で寝るの寂しい。結と一緒に住んでるのに寝る場所別で落ち着かない。」
「んー。一緒に寝たい時は、一緒に寝るってことにしたよな?」
「結は、僕の部屋に来てくれない。」
眉間に皺がよって目に涙が溜まってくる。
「結は、ちゃんと大人になったのに僕はずっと子どもで甘える場所を探してるようで…。ひとりぼっちみたいで…」
結に仰向けにされる。結が僕に覆い被さった。
「俺、いるだろ?ここに。」
「うん。」
「お前の視界に俺いるだろ?」
「うん。」
「糸は独りじゃない。」
涙が、流れていく。目尻から耳に垂れてくる。
「なあ糸。どうしたら、わかってくれる?」
「え」
「好きすぎて、ヤバいんだよ。大事にしたい、大切にしたい。…そんなことばっか考えてる。ずっと、昔からずっとだよ。でも、全然伝わんない。どうやっても俺の方がお前よりお前を好きなのに。」
「結…。」
結は、僕にキスをして抱きしめる。
「ずっと、放さない。1人にさせない。俺、愛してる。糸のこと。」
僕が泣き止むまで結は、ずっと僕を抱きしめていた。
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