①結ばれた糸

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結に連れて来られたのは古い映画館だった。家から電車で1時間。本宮という初めて来る町。 「遠藤君、おはよう。」 「おはようございます。」 映画館の人は結の知り合いのようだった。 「その子は?」 「あ、恋人の糸。」 こ、恋人?待って! 「そっか。今日はローマの休日だよ。」 「へえ、見たことないけど。」 「名作だよ。ごゆっくり。」 結は、チケットを2枚買って1枚を僕に渡した。 「あ、お金。」 「いいよ、このくらい。」 「ありがとう。」 「うん。」 ていうか、さっきのどういうこと? 「恋人って。どういう…。」 「え?」 「いや、え?」 「まあ、良いじゃん。」 良くない! 結は、自販機でコーラを2本買って僕に1本渡してくる。売店で小袋のスナック菓子を2個買って、1個を僕に渡してくる。…カレースナック。僕はコーラにはポップコーン派なんだけど。 シアターに入ると1番前のど真ん中に進んでいった。僕は1番後ろの通路側の席に座りたい。 「糸、どうせ誰も来ないから前に来いよ。」 そんな大きな声で失礼なことを口にしてはいけない。 「僕は、後ろがいい。」 「前に来いって」 「やだ。僕は後ろがいい。」 「しょうがねーな。」 多分、僕が女の子だったら結とは付き合わないと思う。出かけた先で全部、結のペースだからだ。白鳥園にいた頃は僕のペースに合わせてくれたのに、今は合わせてくれないし、勝手に恋人にさせられた。 「たまには後ろもいいか。」 僕の隣に戻ってきて早々と席に座った。 「ここ、元は俺の死んだ祖父がやってたんだ。今は別の人がやってて、市の文化遺産になってるけど儲けないと潰れるからたまに来てる。いつも映画途中で寝るから全然覚えてないんだけど。」 「そうなんだ。」 シアターが暗くなってスクリーンに宣伝が流れる。 「俺を守ってくれなかった親族が残したもの、俺が守ろうとするなんてバカみたいだよな。」 「…そんなことないよ。」 結が、コーラの蓋を開けてひと口飲む。僕は結の隣に座った。 「俺は絶対、結婚しないんだ。」 「え。」 「守り切る自信ないから。家族に守られて来なかったし。」 そんなこと、白鳥園でも今までも、ひと言も言ってなかった。なんで今。 「だからやっぱさ、俺と付き合ってよ。糸。そういうの考えないで好きでいられるのって糸しかいない。」 映画は始まったけど内容は全く入って来なかった。
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