②埋め合う

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結と、一緒にご飯を作る。 いつも通りだ。麻婆豆腐に青椒肉絲、餃子。今日は2人とも中華が食べたかった。 テーブルを囲んで手を合わせていただきますを言うと2人とも無心で食べる。 「今週は仕事忙しかった?」 そんなこと聞いてくるのは結。 「普通…結は?」 「水曜日が特売だったからちょっとバタついた。」 「検品?」 「そう。ハロウィンのお菓子いっぱいきたわ。」 結は、少しため息をついて「どうせ残るのに」と小さな声で言った。 「あれって、10月31日過ぎて余ったらどうなるの?」 「え、30%引きで売る。」 「へえ。じゃあ、11月1日に買いに行こうかな。」 「ええ。カボチャ味なのに?」 結は、プリン以外のカボチャ味は嫌いだ。何せ、そもそもカボチャが嫌いで、冬至南瓜については僕に押し付けていた。ちなみにあずきもあまり好きじゃない。こし餡は食べるけど。 「別に僕は嫌いじゃないので。」 「なんだその言い方。」 「結が、嫌いなもの多いからだろ。」 さらに言えば、サツマイモに関しても天ぷらだけは絶対に嫌いだ。じゃがいもはフライドポテトしか食べないしカレーもじゃがいもを黙って僕の皿に移してきた。そういえば栗も嫌いだ。 「確かに多いけど。食べなくても死なないし。」 「出たよ、その口癖。」 「糸も嫌いなモノあるでしょ。」 「僕は嫌いでも食べるよ。食べてるうちに好きになった。」 「嘘つけ。グリーンピース食わないだろ。」 確かに、グリーンピースだけは好きになれない。 「まあ、それに限っては…歩み寄ったけど折り合いがつかなかった。」 「な。」 「うん。」 再び2人で作ったおかずを口に運び始める。素直に美味しいと思う。 「ピーマンは好きだよな。どうやっても美味いもん。」 結がそう言うから、僕も頷いた。子どもの頃から僕たちはピーマンが好きだ。 ご飯を食べ終わって2人で片付けをして、2人でテレビを見ながらレモンサワーを飲んだ。おつまみはクラッツで、僕はアーモンドを避けて食べていた。 「糸、アーモンド嫌いでしょ。」 「いや、これは…。」 確かに嫌いだ。でも、食べようと思えば食べられる。 「俺が食べるから置いといて。糸にもあるじゃん好き嫌い。」 結が僕の弱点を握ったように楽しそうに笑う。喫煙所でのことを思い出した。好き嫌いしてる。選り好みしてる。プライドが高い…僕の何を見て野上さんはそんなことを言ったんだろう。無性に腹が立つ。レモンサワーを煽るように飲んだ。 「そんな風に飲むなって。酔うよ。」 「良い。酔いたい。」 意地を張る。お酒は飲めるようになったばかりで全く強くない。 「糸、子どもじゃないんだから。」 僕はアーモンドを口に入れて噛み砕いた。好きじゃないから目に涙が溜まってくる。無理して飲み込んだ。 「無理するなって…。」 「やっぱり、美味しくないい。」 「何やってんの…。糸、今日なんか変だよ。」 背中をトントン叩かれた。その後に頭を撫でてくる。 「やめてよ。」 「やだよ。勝手に不機嫌になって、話そうともしないやつの言うことなんか聞かない。」 抱きしめられた。あったかくて、優しい感覚。僕の好きな匂い。 「好き嫌い、してない。僕は。」 「わかったよ。そうだね。」 体が離れてしっかり顔を見られた。 「ごめん、嫌なこと言った。」 結が、僕に謝った。胸の奥が締め付けられて痛くて涙が流れる。 「結は、悪く無いのに。」 「ええ…。」 「ごめんなさい。」 結の胸に顔をつけて泣いた。 「もう…ほらあ、やっぱり酔ってる。」 結が僕の頭を優しく撫でている。 「糸、嫌なことあったでしょ?俺聞くのに。なんで話さないの?愚痴れよ。」 話したいけど、どう話していいかわからない。会社の人からセクハラを受けたと、怒りながらぶちまければいいのか。それとも、冷静に昔家族から受けた虐待があるから彼女を作れなかったりセックスに嫌悪感があったりすることを話した上で、野上さんの発言が許せないことを話すのか、分からなくて。 「何があっても糸には俺がいるよ。」 背中をさする手に縋る僕は幼い。でも、このあったかさと匂いに安心する。結と離れたく無い。結が好きだ。 「…付き合う。」 「え」 結を見つめた。 「結と付き合う。好き。結のこと。」
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