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「もしかして、間に合わなかった……とか」
男性が心配そうにサチを見る。
「え?」
「なんだか、寂しそうな顔だったから。僕に会って、そのときのこと思い出させてしまっているなら申し訳ない」
彼は少し頭を下げ、申し訳無さそうに眉をよせる。
「そんなこと、ないです」
サチは涙が出そうになった。
自分なんかに優しい言葉をかけてもらったのが、随分前に感じた。
ここで泣いたらまた迷惑をかける。
サチは深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
そう言い、精一杯の笑顔を作り顔をあげる。
くるっと回転させ、そこから離れようとしたとき、後ろから声が届いた。
「お腹空いていませんか」
サチは涙を拭い、ゆっくり振り向く。
「え?」
「近くに僕のおすすめのカフェがあるんですけど、一緒にどうですか」
男性はサチの元へ歩み寄る。
「もしよければ、ですが」
そして男性はもう一度申し訳無さそうに眉を寄せる。
「……はい」
サチは彼の目をまっすぐ見た。
******
あのときの辛い思い出は、彼に会うための伏線だったのだろうか。
だとしたら、半年前たまたま通りかかった彼が傘を貸してくれたこと、半年間一度も会えなかった彼と、半年経ってやっと会えたこと。
そして、今、世界で一番大事な人になって、彼の隣を歩いている。
きっと、運命だ。
そう言うと、彼は照れくさそうに笑った。
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