君が”運命”と呼ぶのなら

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 彼女は驚いた表情を見せる。 「いえ。大丈夫です」  そう困ったような笑顔で言う。 「けれど、急いでいるんでしょう」 「え?」 「この時間だと……近くのコンサートホール?きれいな格好してらっしゃるから」 「えっと……はい。そうなんですけど……」 「僕、まだ仕事があって会社に戻るところなんです。この駅直結のビルで働いていて。会社に戻ったら傘あるし、なんなら仕事終わることには必要なくなっているかもしれないから」  リュウが、流れるように、そう言うと、彼女は少し考えたあと、傘を受け取った。 「必ず返します」  シナリオ通りだ。 「いえいえ。安物なので」 「そういうわけには……えっと、連絡先……」  彼女がカバンの中に手を入れる。 「あの、僕、この駅毎日使うので、いつか会えたらで大丈夫です。それより早く行ったほうが。時間、大丈夫ですか?」 「え?あ……」  彼女は時計を見て、行こうかどうか迷っているようだった。 「コンサート楽しんでください」  リュウがそう言うと、彼女は深くお辞儀をした。 「ありがとうございます」  そう言うと、リュウの元から走り去っていった。  リュウはしばらくその姿を見ていた。  今日からしばらく彼女断ちしなければいけない。  自分でそう作ったのだ。  リュウは女にメールを打つ。 『しばらくそいつの家にいてくれ。たぶん彼女はあとからそっちに向かうと思う。』  ここまで、少し遠回りをしたが、まだ序の口だ。  
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