解禁

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解禁

 終業時間きっかりに、浦倉歩人は、鞄を掴み自席を立った。  もはや、彼を縛るものは何もない。  競歩のごとき早足で歩行者をごぼう抜きにして、ただひたすらに家路を急ぐ。  急ぎすぎ?それも仕方あるまい、永劫の牢獄、無限にも思える時間を心を無にすることでひたすら耐え、彼は今ようやく解放されたのだ。  自宅に帰り着けば、鍵を開けるのももどかしく、しかし細心の注意を払って玄関ドアを開けると、漆黒の影がさっと目の前に躍り出てくる。  その瞬間、浦倉の目尻は限界まで垂れ下がった。 「ただいま、俺の天使……!」  笑み崩れた顔で挨拶をすると、艶やかな毛並みの黒猫は『ニギャア~!』と激しく鳴く。  この邪悪な声さえも愛しい。 「フフ…寂しかったか?俺もお前に会えなくて寂しかったよホイエル…!」  ぐりぐりと手に押し付けてくる頭を撫でる。  甘えん坊のホイエルは、食事よりもまず撫でることを要求してくるのだ。 「おーよしよし、ここか?ここがええのんか?」  なでなでぐりぐりなでなでぐりぐり。  衣服に毛がつくことなど気にもならない。  ひたすらに撫でて触って吸って握って、思う様しなやかな肢体を堪能していると、同居人が冷えきった視線を向けてくるが、十一時間ぶりに愛猫を解禁した浦倉には些末なことだ。  気が逸れて手が止まると、続きを催促するように鳴かれて、思わず不気味に微笑んでしまう。  可愛すぎて抱きしめて転げ回りたい。(それは流石に嫌がるだろうからやらないが) 「ああホイエル…、毎日寂しい思いをさせてすまない…!」  ひしっっ。   「まあ、別にお前がいない間は、気持ちよさそうに寝てたけどね」  無粋な言葉は無視した。 「はあ……もう片時も離れたくない」 「在宅の仕事探したら?」 「最近仕事中はもうずっとそればっかり考えてるけどでもあんまりずっと一緒にいると分離不安になるっていうしそうしたら辛いのはホイエルだしあとこれ以上一緒にいたら好きって気持ちがおさえらなくなりそうだし」 「面倒くさっ」  終
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