2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「お前、おもしれーな。俺色に染めてやるよ」
崩れたアボカドを口の端っこにくっつけて、キメ顔のショータがびしっと人差し指を突き出す。
「どう?」
「どうって……」
キモいよ。
ド直球の本音を隠して、俺は答えるべき正解を探す。
キモいし、あと口拭けよ。
いや、これじゃダメだ。
バカだけど、ショータは傷つきやすい。そしてバカゆえに冗談も通じにくい。「キモい」なんて言ったらマジで傷つけてしまう。
「てか、それ何?ショータ、女子にモテる方法がわかったって言ってなかったっけ」
「だからこれがそれだよ。女は強引な男に弱いらしい」
「強引がなんでモテんの?」
「わかんねえ。でも姉ちゃんの読んでる漫画の男はこれでガンガンにモテてた」
「架空の人物を参考にすんなよ」
思わず吹き出すが、ショータはきょとんとしてる。
テスト期間の昼下がり。このサブウェイは駅とは反対方向で、店内に同じ学校のやつはいない。とはいえ、フツーのお客さんで結構にぎわっている。
ショータのやつ、よく恥ずかしげもなく「俺色に染めてやる」とか言えるな。
ていうか、さっきえびアボカドを頼むとき、スタッフのお姉さんに「ドレッシングはわさび醤油がおすすめです」と言われるままモジモジ頷くことしかできず、辛いの苦手なくせに涙目で食べてるショータに強引イケメンは無理だろう。
「じゃあカナタはどうすりゃモテると思う?」
「うーん……」
自慢じゃないが俺もバカだ。バカだしモテないから女の子に気に入られる方法はわからない。
唯一いまわかっていることとしては、俺もショータもこんなとこで遊んでないでさっさと帰って勉強すべきってことだけなんだけど、わかった上でそれはダルい。
「体、鍛えるとか?」
「おお、なるほど」
ショータが乗ってくる。やっぱりバカだ。
鍛えてる場合じゃないよ。勉強しろ、テスト期間だぞ。モテようがモテまいが今は勉強しないと確実に成績が死ぬだろ。
そう思うけど、やっぱダルい。
「よし!じゃあ公園走ったあと駅まで走ろうぜ!」
ショータが元気よく立ち上がった。
わざわざ公園はさむなよ。でもそういうとこ、すごくショータっぽい。「やっぱさ、いまが公園の旬じゃん!秋がいちばん公園が楽しい季節だよな!」とか言って笑ってる。
公園の旬て、なんだよ。
「ほら、行くぞー」ってもう自動ドアをくぐってるショータの後を追い、サンドイッチの包み紙をくしゃくしゃ畳んで、俺も立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!