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「カナタくんて、彼女いるの?」
「……いないけど」
いないけど、なんだろう。
どぎまぎしていると、正田さんは俺以上に緊張した様子で、はあっと息をつく。
「そんなに身構えないでよ」
そう言われても、身構えないわけにはいかない。テスト最終日、解放感もそこそこに俺は正田さんに呼び出されている。
クラス棟最果ての空き教室に俺たちは、いる。かつて生徒数が多かった頃には普通に使われていたらしいけど、今や万年からっぽで、滅多に人が来ることはない。
その性質から今やここはうちの学校における告白の名所と言われているのだ。
「あの、ここに呼んだ時点でわかっちゃってるかな、とは思うんだけど」
「ああ、うん」
「あの、好きなんだよね。私、カナタくんのこと。だから、付き合ってくれないかな」
「おお」
「本当に?ありがとう」
おお、ってなんだ。
自分でもよくわからない返事を、正田さんはなぜか好意的に受け止めた。
泣いているのか笑っているのか、その半々みたいに彼女は顔を真っ赤に染めている。
人間てこんなに赤くなるんだな。
あまりに鮮やかで、俺はなにかとんでもないことをしてしまったんじゃないかとちょっと怖くなる。
俺、この子と付き合うのか。
今んとこ、嫌いではないけど特段好きでもない女の子。かわいい方なんじゃないかとは思うけど、付き合えば、好きになるもんなのだろうか。
よくわからない。わからないけど、エビみたいに赤い正田さんに促され、俺はとりあえず彼女と連絡先を交換した。
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