さねかづら

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 俺と正田さんのお付き合いはかなりひっそりとしていた。  とにかく正田さんが忙しくて。  暇だったのは部活のないテスト期間だけで、吹奏楽部でクラリネットという楽器を吹いている彼女は毎日何かと遅くまで練習している。知らなかったけど、うちの高校はわりと吹奏楽では強豪らしい。  そんなわけで告白された日の「一緒に帰る」という約束はいまだ果たされず、俺は相変わらず毎日ショータと遊んでいる。 「んだらぁぁぁ!!!」  公園で今日もショータはシーソーとすべり台の間を走る。 最近こいつはダッシュしながら雄叫びをあげるようになった。タイムなんて計ったことないのに「叫んだ方がタイム良いんだよ」とか言って。 「でもさ、吹奏楽ってそんな忙しいの?」  走って暑くなってしまったらしいショータがワイシャツの袖をもどかしげにまくった。  最初の一日以降、俺はダッシュも懸垂もしていない。ベンチで見学。遊びとはいえトレーニングは疲れるし、もうモテた俺は鍛える必要がないから。 「そうらしいよ。学校出るの18時過ぎはザラって」 「土日デートは?」 「したことない」 「カナタと正田さん、学校でも別に話してなくね?」 「知らんけど、あんまり周りにバレたくないんじゃない?」  ショータに言われるまでもなく俺も違和感をもってはいる。  付き合うってこういう感じ?俺のこと好きならもっと正田さん側からアクションあるもんじゃないの?と。  恋人らしく、一応毎日メッセージはやりとりしてるけど、正田さんから送られてくるのは部活の愚痴や俺の知らない友達の話、スタバの新作情報、人気らしいけど俺にはピンとこない動画なんかばかりだ。正直なところ間違って登録したメルマガみたい。  さすがに既読無視はしないけど、「いいね」とか、「おもしろい」みたいな、マジでつまらない返ししかできていない。 「あー、ていうか腹減った」 「吉野家行く?」 「すげーカナタ。なんでわかるの?俺もちょうど今そう思ってた」 「お前、腹減ると吉野家とサブウェイのローテじゃん」 「なるほど」  ショータが笑う。さっきより風が出てきた。頭の上と下、両方でカサカサと葉っぱの擦れる音がする。 「行こう。汗冷えると風邪ひくぞ」 「んー」  ショップの店員さんみたいに俺はショータのブレザーを持ってやる。肩のとこをつまんで、腕を通しやすいようにしてやるあれ。ショータは子供みたいに素直で、されるがままにそれを着た。
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