さねかづら

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『おはよー!カナタくんて映画すき?』  電車に乗っていると、今朝も正田さんからの定例通信がきた。  タイムリーな話題に「土曜日ショータと観に行く」と返そうとしたら、向こうからの第二報が先にくる。 『土曜日、部活休みになったんだよね。これ観に行かない?』  続いて送られてきたURLを踏むと、特撮出身の俳優とモデル出身の女優がW主演する恋愛映画だった。  たぶん、俺が変な顔をしていたせいだろう。「どした?」とショータが画面を覗きこむ。 「お、ついに正田さんとデートか」 「いや、土曜日お前と約束してるじゃん。それに俺、アベンジャーズのが観たいし」  昨日ショータん家で観たアベンジャーズに俺はすっかりハマった。特にソーが好き。ソーの活躍をもっと観たい。 「何言ってんの、ここは正田さん優先だろ」 「えー、で」 「も」と言う前に、ショータが勝手に『OK』と返信する。 「正田さん、めったに休みないんだろ?アベンジャーズはまた別日に行けばいいじゃん」 「月に2回も映画観られるほど小遣いないんだわ」と言おうとして、なんだかいつもと違ってショータより俺の方がバカみたいになってない?と思いとどまった。  ショータのやつ、いつの間にこんな気遣いできるようになったんだろう。つい最近まで「俺色に染まれ」とか気持ち悪いこと言ってたくせに。  俺、というかショータが返信してすぐに正田さんから『楽しみ!』と笑っているウマみたいなキャラのスタンプが届く。 「楽しんでこいよ」  覗きこんだショータに微笑まれ、俺はなんだか無性に恥ずかしくなる。  そりゃ女子と二人で映画行くなんて生まれて初めてだし、ましてや相手はいちおう俺の彼女なんだし、楽しみっちゃ楽しみなんだけど。  なんだろう、この言い知れぬ感情は。緊張?期待?不安?胸の骨が一本抜けて、そこだけ粟立ってるみたいな感じで、妙に落ち着かない。 「おお」 結局、YESなのかなんなのか、自分でもよくわからない返事でその場はお茶を濁した。  
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