さねかづら

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アイスはチョコミント。 ポッキーよりトッポ。 コーラはペプシで、ポテチは湖池屋のりしお。 「カナタくん、ポップコーン買お」  映画館に私服で現れた正田さんはたぶんかわいかった。街には似た感じの恰好の子がいっぱいいたから流行りのファッションなんだろう。オシャレして来てくれたと思うんだけど、女子の服はよくわからない。  女子の服以上に、映画はもっとよくわからなかった。美人女優演じる主人公は役的にはモテない設定で、でも実際はハイスペイケメンに次々モテて、中でもいちばんハイスペで強引な男とハッピーエンドになる。  ショータの言ってた「おもしれー女」とか「俺色に染めてやる」とか言う男がモテてるってマジじゃん。やばい。  正田さんは映画が終わってもポップコーンを抱えていた。「一緒に食べようよ」と言われたけど、あのモキュっとした歯触りが苦手で俺は少ししか食べなかったのだ。  もし俺の分込みで買ってくれたんだったら申し訳ないな、と思う。 「この後、どうしよっか」  正田さんが俺を見上げた。  柄にもなく、俺はドキリとする。やっぱり正田さんて、かわいいんじゃないかと思う。好きかどうかはともかく、かわいい。この子が俺の彼女ってかなりいいことな気がする。  いや、でも。  映画館の上映中作品にはさっき観た恋愛映画に並んで、アベンジャーズのポスターも貼ってあった。ソーもばっちり映ってる。  上映は今月いっぱいまでだ。本当は今日、ショータと観られるはずだったのに。ショータだったらポップコーンも買わなかっただろう。 アイスはチョコミント。 ポッキーよりトッポ。 コーラはペプシで、ポテチは湖池屋のりしお。  あいつと俺の好みはすごく似てる。  ショータいわく、製造元が一緒なせいだろうか。そういえば、チョコミントはショータ経由で好きになったんだっけ。  市民プールの帰りのコンビニで、「歯磨き粉の匂いじゃん」ていう俺に「食ってみろよ、さわやかで美味いから。さわやかすぎて歯磨き粉の方が真似してるだけだから」ってあいつがくれた一口。  このまま正田さんと付き合っていれば、俺はポップコーンも好きになるのだろうか。  ショータにチョコミント好きに染められたように。口にアボカドくっつけて「俺色に染めてやる」ってキメてたショータ。バカなあいつにすっかり染まってる俺は、たぶんもっとバカなんだろう。  視線を感じて振り向くと、ポスターのソーと目が合う。やっぱり今日、俺はソーの勇姿を見たかった。ポップコーンだって、本当は食べたくなかった。  もし正田さんがチョコミントを嫌いだとしても、俺は昔のショータみたいに「食ってみろ」と勧めない。正田さんが俺と同じものを好きになってくれなくて、別に構わない。  これはつまり違うってことだ。  相手なのかタイミングなのかわからないけど。俺は今のままがいい。 アイスはチョコミント。 ポッキーよりトッポ。 コーラはペプシで、ポテチは湖池屋のりしお。 観たい映画はアベンジャーズ。  既にショータ色に染まってる俺はこれに馴染んでてこれがいい。別のものを、求めていないんだ、きっと、今、俺は。
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