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「んぬぅあんで別れちゃったんだよぉぉっ!!?」
公園で今日もショータはシーソーとすべり台の間を走っている。
ダッシュするとき、雄叫びをあげる代わりに俺に話しかけてるせいで超息切れしてる姿はマジでバカだ。
「ッいろいろ、あんのよッッ」
俺も久々に走ってる。だってそうだろう。正田さんと別れ、モテ終わってしまった身としては体を鍛えないわけにはいかない。ショータと遊ぶのがいちばん楽しいのは事実としても、モテたいのはモテたいし。
いつのまにか公園の木はすっかり落葉している。足元でガサガサしていた葉っぱの渦もきれいに片付けられて、吹き抜ける風は冬の鋭さを孕みはじめている。
「はああ、もったいない。カナタ、もう二度と彼女できないんじゃない?」
「マジかよ」
「そうだよ、次モテるのは俺だよ。見ろ、お前がトレーニングをサボった間に育てたこの筋肉を!」
頑張ってたわりに別にそんなに筋肉ないよ。
ていうか俺と変わんねえ。
バカだけど傷つきやすい、そしてバカゆえに冗談も通じにくいショータに、この感想はきついかも、と俺は笑ってごまかす。
ベンチに戻ってショータにタオルを投げた。今日はこれで終了だ。この前の風邪を教訓に、俺たちはなんちゃってトレーニングとはいえ運動後はしっかり汗をぬぐう。
「どっか寄ってく?」
支度を終えて聞いた俺に、ショータが「サブウェイ!」と叫ぶ。ブレザーを羽織りながら、めっちゃ笑顔で。今日も空は晴れていて、旬が過ぎた公園もショータと一緒なら全然楽しい。
「え〜、駅と反対方向じゃん」
いちおう言ってみたけど、昨日は吉野家だったし、ショータがそう言うのはわかってた。ショータもたぶん、俺がそう言うってわかってた気がする。
「いいじゃん、サブウェイまで走って、食ったらまた駅まで走ろうぜ」
「しょうがねえな」
既に走り出してるショータに負けじと俺も走り出す。跳ねるみたいに楽しげなショータの背中。耳元を風が過ぎてゆく。秋も冬もその先も、ずっとこんな日が続けばいい、なんて、ちょっと言い過ぎだけど。
ポケットでいつかのイチョウがカサカサ鳴った。
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