忘れ物ですよ

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「忘れ物ですよ」  見知らぬ男に声を掛けられた。そこは街頭の少ない住宅街だった。ただでさえ薄暗くて早く家に帰りたいと言うのに、見知らぬ男に声をかけられるとは、この上なく恐怖した。 「ど、どうも」  そう言い、俺は男からそれを受け取った。  それは小さな箱。明らかに俺のものではなかった為、渡した男に返そうとした。だが、何処を見ても男はいない。  首を傾げながら、俺は箱の蓋を開けた。  箱の中には一枚の紙が入っていた。 「何だ、これ」  折り畳まれた紙を広げると、そこに書かれていたのは―― 【くびわいりますか】 「首輪? はっ、要らねぇよ」  俺は反射的にそう答えていた。何故平仮名で書かれているのか、よく考えるべきだった。その言葉を最後に、俺はこの世界の住人ではなくなった。俺が消えた後、男がその場に戻ってくる。転がる俺の頭を見て、薄く口角をあげて笑った。 「首を要らないとは……自殺志願者だったようですね。ふふふっ」  男は次のターゲットを探すために、暗闇の中に姿を消す。次に声を掛けられるのは、貴方かもしれない。 「こんばんは、忘れ物……ですよ?」
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