駆け引き

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 まさかの登場に、私は吃驚して目を泳がせる。 「いや、なんでもねーよー。」  そう言った山田さんもきっと私と同じなのだろう。 「高野おはよう。」 「お、おはようございます。」  気を取り直して、キラキラのスマイルをお見舞いされれば、胸が騒ぎだす。アイドルにハマる女子の気持ちが、今なら分かる気がする。  下からのアングルでも不細工にならないのは、本当に狡い。山田さんなんて、どう足掻いても普通以上にはならないし、下回る限度は果てしないっていうのに…。 「佐伯、俺は?俺に挨拶は?」 「あー山田おはよう。」  それは意地悪なのか、目を極限まで細め笑う王子の肩が揺れる。  ネタなのだろうか、今存在に気付いたぞと思わせる徹底ぶりだった。 「佐伯ひでぇー。それが啓様に対する態度かっ。」  シュンと態とらしく項垂れた山田さん。まあ面倒いこと…  その後、ナチュラルに手を差し出してきた佐伯さんを掴み立ち上がれば、私たちは三人肩を並べてビルへと入る。  外気から隔たれた熱気が私たちを襲い、完全防備の私と佐伯さんは直ぐに首元を開けた。  ジワリと噴き出てきた汗…エレベーターに乗り込めば、二箇所のボタンを押す。私と山田とは違う階の佐伯さん。  先に我々が降りる…目の前には山田さん。そして私も、と一歩踏み出せば、 「あとで連絡していい?」と、私にしか聞こえない小さい囁きに、思わず振り返る。 「ーーー…っはい!」  突然?それとも不意打ち?咄嗟に元気な返事をすれば、「なんだ?」と山田さんの声が背後から聞こえてくる。 「山田には内緒ね?」と口元に人差し指を添えた王子様。  ビーっとエレベーターのブザーが鳴ると、私は箱の中から出て、佐伯さんに頭を下げた。  閉まった扉を暫く見つめていれば、「おーい馬鹿。打刻しろー。」と同僚山田先輩からの忠告が入る。  私は事務所へと入り、意気揚々と部長に昨日の早退を謝ってから仕事に取り掛かった。
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