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昨日の遅れを取り戻そうとすれば、既に山田さんが手回し済みで、お昼は御礼にランチをご馳走してやることにした。
彼曰く、まあ自称「仕事が出来る優しい先輩だけに留まらず、恋のキューピッドだもんな〜」と自棄に鼻高々な馬面野郎。
私たちはオフィス近くの中華屋でランチセットを食べている。
上座の山田さんの餃子のタレに大量にラー油と胡椒を追加してやった。
「なにすんだよ!」
「なんかムカつくんで、プレゼントです。」
「全然嬉しくねーよ。」
そうは言いながらも、意外と馬鹿舌なのか、平然とし辛そうなタレで食べていた。
お会計後、先に店を出ていた山田さんを追いかけ外に出てみれば、彼の視線は遠くを向いている。
「どうかしたんですか?」
気になって、何気なく同じ方を向けば…
「こんな真っ昼間から物騒だな。」と、山田さんは声を漏らす。
私たちが見た光景は、少し離れた雑居ビルの入り口前に群がる黒スーツ集団だった。
ガタイの良い顔ぶれが勢揃いしたその集団は、見るからにあっち系…。
「見てるの気付かれたらやばいですよ?」
「あぁ....そうだな。行こうぜ。」
これは不穏の前兆だろうか....。何処かで誰かが何かをする。
関係無いはずなのに、この騒めきの正体はいったい何なのだろうか。
午後は不意打ちのクレーム処理に見舞われ、私は残業を余儀なくされた。
どんまい。と珍しく先に仕事を終わらせた山田さんから手渡されたドリップコーヒーは、既に冷めてしまっていた。
真っ暗闇が支配する外だが、窓から外を覗けば、微かに雪が散らついていた…。
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