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あれから半月程が経過していた。俺は高野さんの連絡先は消せずにいた。
本邸で会長に会わせたあと、聖夜との関係を切る承諾書を書かせてしまった。
自分が産んだ子ではないのに、聖夜との別れ際の高野さんの表情が、今でも頭にこびりついて離れない。
「ママっ....ママ....どこ」
初めこそは誤魔化せていた言い訳も、もう通用しないのか聖夜から笑顔が消え、その代わりに泣きが顔を見る事が増えた。
聖夜は会長の養子として書類上受け入れた事になり、名字は亡くなったあいつの父親....アニキと同じものに変わった。
そして教育係と世話役として任を受けたのは、俺と樋熊だった?
樋熊は毎朝私服で本邸に聖夜を迎えに行き、近所の保育園へと送る。それが終われば別邸に戻ってきて仕事着に着替えて俺と行動を共にしている。
「今日もグズってたか?」
「....はい。本邸の方でも、泣き疲れでやっと寝てくれるらしいっす。」
俺たちが暮らす別邸ではなく、本邸で暮らす事になった聖夜は、母親の姿がなくなった事に加え、見知らぬ顔ぶれの本部組員に慣れる事は無く、新しい環境に適応してくれるまでは、まだまだ時間が掛かりそうだった。
副組長の配慮で、俺と樋熊は聖夜との接触を許されているが、高野さんが居た時は打って変わり、聖夜の機嫌は常に斜め。
会長は相変わらず子供が好きそうな玩具やお菓子などで、孫の機嫌を取ろうとしているが....
「そろそろ上と話を付けて、こっちで暮らせるようにしなくちゃな。」
「そうですね....それに、どうにか聖夜の意識を高野さんから遠ざけなきゃ、このままだと聖夜が壊れちまう気がするんすよ。」
「なんだ樋熊....妙に優しいじゃねーか。」
「自分も母親に捨てられてんすよ。父親はどっかのヤクザで、俺を引き取った後に、再婚相手に預けてそのまま務所入りで、心不全で他界してるっす。」
「そうか....俺は父親に捨てられた身だ。お袋は未婚で俺を産んで、今じゃヤクザになった俺と縁を切って、どこかで水商売してるらしいぞ。」
「....でも、深瀬さんって、ーーーの血縁ですよね?」
「あぁ....でも、この世界じゃ、俺みたいな奴は、これ以上這い上がれねーんだよ。」
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