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俺の生い立ち上の酷な出来事は、ーーー…兄貴が殺されたことくらいだ…。
ガキの頃からお袋と二人暮らし。父親の存在はお袋の口から『死んだ』との一点張りだった。
初めから居ない人間だったから特に何とも思ってなかったが、
ある日遊ぶ金欲しさに、お袋のへそくりを探そうと箪笥の中を漁っていれば、皺くちゃになりながらも密かにしまってあった若い頃のお袋と見知らぬ男が写ったそれを見つけてしまう。そしてそれが自分の父親なのだと勘付いた。
お袋は死んだと言っていたその男の顔立ちは、思春期頃の俺には、鏡に映る自分と目元が似ているのだと気付けば、それは確信へと変わる。
だからって、死んでいる会ったことすらない親父の背中を追い掛ける様な無謀な馬鹿ではない。
ただ、俺はこの人とお袋の子供なのだと認識するだけだった…。
あれから男の面影は随分と薄れてしまっていた高校三年の夏休み中の出来事。
免許を取った俺はダチと二人、浮かれ半分でドライブを楽しんでいた。
先輩から安値で譲ってもらった車高の低いハコスカで、馬鹿みたいにデカい排気音を奏でながら国道をひた走る。
カーステレオから流れる海外ロックバンドのヒット曲を出鱈目な英語で音痴に歌うことが、最高に楽しい時間だった。
地元ではそれとなく不良の仲間入りをし、偶に買う喧嘩。どれだけ痛い思いをしたって、仲間から離れようなんて微塵も過ることはなく、ただ時の流れに身を任せて、俺の人生はなる様になると思っていた。
楽しいドライブに終わりが迎えたのは、隣の県へと入って直ぐのことだった。
昼過ぎで出発した俺たちは小腹が空いた為、目に着いた茶店へと車を停めて中に入る事にした。
そこは俺たちの地元とは打って変わって柄の悪い不良の溜まり場と化していた。
俺たちは場違いなそこから直ぐに退散しようと、入り口から背を向ける。
「お前等見ねー顔だな。」
そう声を掛けられた刹那、ぞくりと背筋が震え上がった。
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