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この顔触れの中で、一番存在感が薄い様で、一際独特な雰囲気を醸し出すその男は、確かに一番最初に聞いた声と一致した。
「....触れ、」と続けた創士という男に、目の前の下っ端野郎が、俺にガン付けながら渋々と後退していく。
「お前、どこから来たんだ?」
呆気に取られ未だ棒立ちの俺を見つめる創士の視線は、とても穏やかであり他の奴等の殺気とは雲泥の差があった。
「隣の◯◯県っす....」
ただそれに安堵するのはまだ早い。殺気が漏れ出ない奴かもしれないと、まだまだ油断は大敵だ。
創士の所為か外野は黙って見ているが、犇々と伝わる余所者への敵対意識。
不良業界は縄張りに五月蝿いものだ。それは何処でも共通なのだと認識している。
ただこの店の外観は、それこそ一般的なもので、まさかこんな不良達の溜まり場になっているとは想像もつく筈がない。
もくもくと煙が充満する店内でたった一人だけ、煙草を吹かしながら俺を吟味する切れ長の目。
なんとなく....既視感のあるその顔立ちに違和感を覚える。
しっかりと凝視したからこそ分かるそれを記憶の中で探り始めた。
「....そうか。茶飲みに来たんだろ?席は空いてんだ、まあ座れよ。」
その視線が俺から、創士の隣のテーブルへと向く。
即ち、そこに触れと言う意味だ。それはどんな馬鹿だって理解出来てしまう。
見るからに格上相手。地元の先輩と比べたって比にならない風格に、断るという選択肢を俺は待ち合わせていない。
俺はこくりと小さく首を傾げて、「おい、座るぞ。」と顔色の悪いツレに声を掛け、店内へと入った。
やけに静かで気不味い店内。俺は人一人分空いた創士との幅に緊張するが....
「今店員呼んでやっから、頼めよ。」
「....はい。どうもっす。」
意外にも想像を裏返す創士の言動に、俺は少しだけ肩の荷が降り始めていた。
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