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意外にも丁寧に店員を呼び付けた創士は、煙草を咥えながら俺たちの方を向き、メニュー表へと指をさす。
「ここの飯はうめぇから、腹減ってんなら食ってけ。....あ、おやっさん。会計こっちに付けといてくれ。」
「え、そんな....悪いっすよ。」
創士はあれよあれよと老耄の爺さんに話をつけ始め、咄嗟に止める。
「いや、こっちが先に失礼働いたんだから....詫びだ。」
それは格上だからこそ出せるもの。チラリと創士の装いを盗み見れば、真っ黒な半袖から覗く鮮やかな模様。首には太い純金。テーブル上に堂々と置かれた分厚い財布。
貧乏不良じゃ手が出せない高い煙草と、洒落たジッポ。
「こちとら弱い者虐めする程暇じゃねーし、そこまで落ちぶれちゃいねーよ。」
この人相の悪い集団の中で、唯一容姿も中身も男前な奴....それが創士との出会いだった。
それから創士が勧めてきた洋食を食べて、食後の珈琲まで世話になってしまった。
食事中に会話は無かったが、「煙草吸う奴か?」と問われ「はい」と答えると、創士は自分の煙草の箱を俺に差し出して、「ん。」と器用に一本突き出してくる。
俺は恐る恐るそれを掴んで口に咥えると、次には火が口元に迫り、吃驚しながら吸い込む。
それは今まで吸った事のない美味い味がした。
「外のハコスカお前のか?」
自身も新たに点けた煙草を吹かしながら、小窓の方へと指をさした創士。
俺は「そうっす。」と返事をすれば、「いかすの乗ってんじゃねーか。」と密かに見た創士の横顔は笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。」
「俺の車よりちいと古いが、悪くねーな。」
ほら、アレだよ。と側道側を指差した創士に続きそちらを向けば、俺の錆びついた車よりも大分黒光りしたセダンが停車していた。
この男はいったい何者なのか....考えたところで行き着く答えは、たったのひとつ。
矢鱈と羽振りが良く、その体に刻まれた古風な柄が雰囲気を醸し出す。
「そう言えば聞き忘れてたけど、お前名前なんて言うんだ?」
「....透っす。」
「そうか....透か。俺は若松 創士だ。宜しくな透。」
不意打ちで撫でられた頭に、一瞬だけビクついたが、裏表の無い無邪気な表情を見てしまえば、疑念を振り払っていた。
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