駆け引き

12/16
前へ
/116ページ
次へ
 新天地での孤独の始まり。だがしかし、そこには憧れの男が居る。  あの日、初めて出会った事が運命だったのか。  それとも、その後再会した事が天命なのか....。  安定と引き換えにつまらない日常を捨て、若松 創士という憧れを追う権利を得た。 「改めて、俺は深瀬 透です。」 「そしたら、俺は....ヤクザ、千種会若頭若松 創士だ。」  酒月ではなく交わしたのは、湯呑みに入った茶。  俺は....直ぐに工事を辞めて、千種会というヤクザ者に転身した。 「透、俺にもしもの事があった時は、お前が俺の跡を継げ。」  約十年間....俺は若頭、若松 創士の弟分として、組織内の舎弟頭にまで上り詰めていた。 そんな途中に俺が気付いてしまったこと....  会長の息子である創士。その会長とやらが、昔見た実家の箪笥に眠っていた写真の人物だと気付く。  創士と初めて会った時に感じた既視感の正体は、これだったのか....。    この事実は、創士(あにき)にも分かっていた事なのだろうか.... 「俺の弟がお前で良かった。」  俺のお袋は、会長の元愛人。創士の母親は本妻。もう何年も前に亡くなってしまったらしい。  だがしかし、俺たちは生い立ちが違かろうと、弟分という立場よりもより深い、腹違いの兄弟だった。   「ーーー…陌間(はざま)が裏切りやがった。」  六年前の悲劇。組織内で分裂し掛けていた派閥のぶつかり合いは、複数名の死傷者を出して、一時幕を閉じた。 ....俺の兄貴は亡くなった。   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加