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寒空の下、ちょっぴり歯痒い無言の時間。
佐伯さんの言う通り、直ぐにやって来たのはパールホワイトの外車。
目の前で路駐したその車の左側の窓が開く。
「あなたが高野 友里さん?」
運転席から顔を見せたのは、とても綺麗な女性。夜会巻された髪型に、真っ黒な着物姿の落ち着いた印象を受けた。
「はい。そうですが....」
「あら、やっぱり!」
肯定すれば、まるで花開いた様に笑顔が咲き乱れる。
ん?どちら様だろうか。と疑問符を抱いていれば、真横に居たはずの佐伯さんが、慌てた様子で運転席へと駆け寄ると、その女性に耳打ちを始めた。
「やだ私ったら....ごめん春翔。」
「とりあえず迎え有難う。さっ、高野乗って?」
「え?あ、ぁ....はい。」
訳がわからず佐伯さんが開けてくれた後部座席へと乗り込む。
その後は、佐伯さんが助手席に乗り込むと、改めてその女性は名乗り始めた。
「はじめまして、春翔の姉の夏喜です。一昨日電話で会話したの覚えてるかしら?」
「あぁ....って、あの時のお姉さんですか⁉︎」
「そうよ〜。いつも春翔がお世話になってます。」
「いえいえ、私の方が佐伯さんに....いや、春翔さんにお世話になりっぱなしで、」
姉弟....佐伯と呼ぶのはちょっぴり可笑しい。咄嗟に呼んだ下の名前。
「あら春翔、なに赤くなってんのよ。」
「姉さん五月蝿いっ....ちょっと黙ってよ。」
「なによ〜。アンタもいい歳して照れちゃって、」
後部座席の私には見えないけれど、斜め前で必死に顔を手で覆った佐伯さんの姿が見えていた。
夏喜さんはそんな弟さんの肩をバシリと一回叩く。それがなんだか微笑ましい。
ゆっくりと走り始めた車内で、夏喜さんは一方的に喋り掛けたきた。
「友里ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「はい。大丈夫です。」
「私のことは、夏喜姉さんとでも呼んでね?」
「....はい。」
「私こう見えても、高級クラブのチーママしてるのよ〜。」
「そうなんですね....。」
そうなのかな?とは薄々感じてた。夏喜さんは性格のとても明るい女性だ。偶に話に夢中になって、スリップしそうになった時は、その見た目からは想像が付かない程、腹の底からゲラゲラと笑い声をあげていた。
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