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夏喜さんのドライブテクニックはご想像の通りに....。なんとか無事に辿り着いた我が家。
吐き気を抑えながらマンション前で停まる車に控えめに手を振る。
すると、夏喜さんが私を呼んだ。
「友里ちゃんっ!....春翔のこと、よろしくね!」
真剣な顔をしていたと思ったらニタりと笑う綺麗な夏喜さん。
その背後で佐伯さんが「やめろって〜」とまた恥ずかしそうに手で顔を隠していた。
「....はい!今日はありがとうございました。」
「いいのよ〜今度は春翔とお店に遊びにおいで!」
「ぜひ....。」
深々と頭を下げ、私は振り返ってその場を後にした。
背後から微かに聞こえてきた排気音。私は少しだけ笑みを浮かべながらエレベーターに乗りこんだ。
束の間の浮遊の後、部屋の前へと向かった私だったが....
「あぁ....あんただったのか。」
玄関前に寄り掛かって私を待ち構えていた人物に、呼吸をする事を忘れてしまった。
見覚えしかないその容姿。あの時聴いた声。
「悪いが、付いて来てもらうぞ。」
その声は脅迫....ポケットから出てきた手には、スマートフォン。画面には....
「んなっ....。」
反応を示した事が、この時最大の失態。
「ーーー…ガキの命が惜しければ、黙って付いてきな。まあ、抵抗したところで、」
反対の手には黒いソレ。模造品じゃないことは確か。否、この男が持っていれば、それは本物になり得る。
『....だって、訊いてよ京太郎。この女ったら....』
私は知っている。彼等が持つ独特な雰囲気を....
私は気付いている。目の前の男が、敵だってことを....
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