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晴れて私は独り立ちし、佐伯さんの下から外れると、より想いが薄れていった。
そんな矢先の社会人二年目....聖夜が私の前に現れた。
約五年間必死になった。仕事と子育ての両立。仕事終わりの飲みの付き合いは無くなり、いつしか社交のない私は蚊帳の外。
それでも私は、聖夜が居れば大丈夫だった。
あの子の笑顔を守れるのなら....どんなに辛い目に遭ったって平気だった。
そしてつい先日、私は聖夜とお別れした。
心にぽっかりと空いた穴は、思ったよりも大きくて、でも忘れる為には別のことを考えなくちゃならない。
今目の前には、数年前諦めた気持ちが、少し別の形で蘇ろうとしていて、改めて私はこの五年間の間で強くなったのだと痛感するのだ。
「アンタ何なのよ。」
啖呵を切ったのは、所詮元カノ。
「元部下ですけど、何か?」
山田さんの言ってた言葉は確かに合っていた。私を蔑む様な視線。それはとても冷たくて、この場の空気は絶対零度に凍り付きながらも、私の想いだけは誰よりも熱い。
まあ、酒の力有きだけど....。
最近色々な事が私の身に降り掛かった。常人が一生味わう事のない苦痛を経験した。
ヤクザと関わって、ちょっとやそっとじゃ動じない。否....怯んでなんかやらないわ。
「私は春翔に用があるの。ちょっと貸しなさいよ。」
「場を弁えて下さい。さっきも言いましたよね?同じ事二回も言わせないで下さい。しつこい女は嫌われますよ。」
ここまで猛攻を繰り広げれば、私たち....いや元カノさんは注目の的なのである。
私のトドメの一言で、一気に顔を真っ赤にした女は、完全に頭に血が昇ったのだろう。山田さんの背後を通り過ぎて、私の目の前へと回り込んで来た。
そして勢い良く右手を振り上げると、それが私の左頬にぶつかった。
ーーバチンっ!と大きな音が立つ。叩かれた拍子に私の頭が大きく揺れると....
「「なにし「ーー…ばかやろう‼︎」
驚いた佐伯さんと山田さんが声を発した直後、離れた場所から別の男性の怒鳴り声が店内に響き渡った。
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