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あの男女が店内から立ち去ると、静かだった店内が騒然とし、何事も無かったかの様に再び動き出す。
「プハーッ‼やっべー俺息止めてたわ。」
あれから数十秒後、山田さんが正気を取り戻すと、続けて私も深い呼吸を繰り返した。
「高野頬大丈夫か?ちょっと見せて。」
佐伯さんは冷静そうに見えて、表情は曇り気味だ。私は言われるが儘に打たれた方の頬を見せつつ、佐伯さんの事が心配になってしまった。
あの人は何故佐伯さんにあんな言葉を掛けたのだろうか。本当に謎だ....。
これは勝手な考えだが、俺の女が今まで世話になったな。みたいな?元彼氏に対する労いの言葉なのだろうか。あんな横暴な女性を相手によく付き合えたよな~と、今更ながらに佐伯さんの元カノは、私が思っていた女性像とは、随分と掛け離れたお姫様?否、とんだじゃじゃ馬だった。
「良かった....腫れてはなさそうだな。」
私に触れる佐伯さん手は、若干ヒリついた頬をいつまでも撫でている。
「おいおいおい。目の前でいちゃつくんじゃねーよー。」
「「いちゃついてないっ!」」
珍しく発言が重なった私たちは、恥ずかしながらも笑い合うのだった。
そしてあんな修羅場があったにも関わらず、しっかりと二軒目まで梯子した私たち三人。
「やっぱ安い・美味いが性に合ってるわ~。」
「同か~ん。」
「―――…えっ⁉高野ああいう店駄目だった?」
「いや、ダメ~とかそんなんじゃないんですけど....私みたいな女子には気後れしちゃうって言うか....。」
「そうだな。高野は甘いカクテルよりも癖が強めな焼酎が似合うオッサンだな~。」
「田中さん五月蠅いです‼」
「お前っ!態と間違えやがったな⁉」
「だって、突っ込みを入れるタイミング無かったんですもん。」
「確かに...。」
「って、佐伯さん⁉オッサンは否定してくださいよ。」
「ああ....そうだな。高野はずっと可愛い女の子だよ。」
「ヒュ~熱いね~。」
これは照れ不可避だ。今更こんな事言うなんて....。熱を帯びた顔を隠す私は、密かに指の隙間から佐伯さんを盗み見る。
「ああ”カッゴイイ~。」
「酔っぱらって、ぶっ壊れたな....。」
なんだかんだで御開きになった飲み会。どうやって帰宅したのかは定かではないが、気付いたらベッドに横になっていた。
「―――…セイヤ~いい子にお留守番してたぁ?....って、もう居ないんだったわ。」
私しか居ない家で、それは独り言になった。
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