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微弱に残るアルコール。自分で分かるくらいの強烈な口臭に眉間に皺を寄せた。
脱ぎ掛けの仕事着はくしゃくしゃで、床冷えする早朝には地獄。
「ーーー…へっくしゅんっ‼︎」
盛大なくしゃみと共に歯の隙間に残留していた〆の米粒が床に飛び散った....。
「うわっ顔真っ赤じゃねーか。」
なんだか常に寒気が走るこの日。なんとか会社に到着するが、朝一で山田さんの残像が見えてしまった。
実は彼は能力者で、普段から高速反復運動を繰り返していたのだろうか?それとも、私の瞳が可笑しくなったのか。
冷んやりとした手が私の額に被さると、その気持ち良さに表情はとろりとしながら綻ぶ。
「お前絶対熱あるぞ。」
「はー....そうですか。」
「やっぱ、ちゃんと布団に入るまで見届ければよかったか....。どうせ腹出して寝てたんだろ。」
「ん〜....ご名答〜山田さんすごぉい。」
脳みそが大きく揺れる。体はふわふわと浮いてる気分だ。そして....あぁ風邪引いたのか。と少しだけ冷静になる。
「どうする?お前ん家会社から近いから一人で帰れるよな....って、おいっ⁉︎高野っ‼︎」
山田さんの声が遠くなり、私の視界が真っ暗闇に包まれた。
『ーーー…ほんと、…は無茶し過ぎ。偶にはゆっくり休みなよ....。』
その声が再び、聴こえてきた気がする。
「....はい。はい....申し訳ございません。心配なので今日は有給取らせてください。あっ....そうです。....はい。ご迷惑お掛けします。また進展ありましたら連絡します。....はい。それでは失礼します。」
腫れぼったさが残る重い瞼。私の体を取り巻く温もり。すぐそばから聴こえてきたのは....佐伯さんみたいな声。
「…ん?」佐伯さん⁉︎聞き間違いだろうか、でも聞き間違える事は無いその独特な声色。
思い切って開いた瞼。視界いっぱいに広がる景色は、未だに慣れない白く綺麗な天井。引っ越してまだ間もない新居。視線を落とせば寝室の隅でスマホを操作するお洒落スーツの男。
後ろ姿でも分かるあの人の茶髪パーマ。
「どうして佐伯さんがウチに居るんですか⁉︎」
かなり吃驚しながら、佐伯さんに声を掛けると....
「高野…会社で倒れたの覚えてない?」
それは薄っすらと残る記憶。
でも、あの時居たのは山田さん....だったよね?
「山田から電話きて焦ったよ。昨日の今日だったから家知ってて良かった。....身体辛くないか?勝手に冷蔵庫開けちゃったけど、酒しか無いな....ちょっとコンビニ行って何か買ってくるよ。食べたいのある?」
「....プリン。」
「おっけー。戻ってくるまで起きあがっちゃ駄目だよ?」
何がなんだか状況を掴めず、放心状態の私を他所に、佐伯さんは家から出ていってしまった。
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