知らぬが仏

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 佐伯さんが買ってきてくれたプリンは、大きくて高いものだった。こんな贅沢なもの....聖夜が居た時は特別な時にしか食べて無かったな。  うんと甘くて大きいのを買って二人で分けて食べていた。一人で一個を食べる....本当なら嬉しいはずなのに、味気ない。ひと口目を含んで飲み込めずにいると、 「無理して食べなくてもいいからね?」 私は思い出してしまった。あの子と食べた幸せな時間を....。あの子と共有した時間という価値を....。 もう後戻りは出来ないから自覚するのだ。 「....ぃいえっ、食べますからっ!」  がつがつと慌てて口にかきこむ。密かにジンと熱を持った目頭。零れ落ちないように必死に抑え込む。  甘いムードから一転した。プリンは甘いようで甘くない。きっと今の私は美味しさを感じられない。      その後、無理に完食した私は若干咳き込みながら解熱剤を飲み、再び横になっていた。 「俺、高野が寝たら帰るね。鍵は掛けたらドアポストに入れとくから。」 「ほんと、なにからなにまですいません。」 「気にしないで....心配だからしてあげたいって思って行動しただけだから。」 「....もうっこんなに特別扱い受けたら、誰だって勘違いしちゃいますよ。」  虚ろな目で佐伯さんを見れば、その熱い視線と交わった。真剣みを帯びるそれは.... 「―――――…誰にでもすわけないよ。」  私の心を大きく揺れ動かす。 「え。――――――」  迫りくる佐伯さんの手が、私の額に添えられると....そのまま髪を撫でられ毛先を持ち上げる。そして王子は口付けを落とした。  その一連の動きに気を取られタイムラグが発生した。 「顔真っ赤....」    恋愛初心者の私には、このドキドキをどう対処していいのか正解が分からない。  王子様は、どうして私にこんな事をしたのだろうか....。 ――――やっと俺のこと意識してくれた?  体中のこの火照りは、風邪の所為なのか....それともこの男の所為なのか....曖昧だけど断片的に私の記憶に刻まれた。
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