忘れられない恋をした。

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〜1年前〜 中学2年の頃 私には密かに想いを寄せている人がいる 同じクラスの佐々木(ささき)くんだ 佐々木くんは誰にでも優しくできて、約束は何があっても守ってくれる そんな佐々木くんに私は憧れに近い恋心を抱いていた ただのクラスメイトでは嫌だった ただの友達もなにか違う 私はその1歩先に行きたかった だから私は、今日佐々木くんを近くの公園に呼び出した 中学2年生の拙い文章で書いた手紙を下駄箱に入れた 私は手紙を入れてすぐに待ち合わせ場所の公園まで走った 僕は... どうすればいいのだろうか 下駄箱を開けたら1枚の手紙が入っているのに気がついた 桃香からの手紙だった 『佐々木くんへ  突然ごめんなさい  どうしても伝えたいことがあるので  今日の17:30に近くの公園に来てください  嫌だったら来なくて大丈夫です  鶴崎桃香より』 桃香、僕の片思いの相手からの突然の呼び出しに手紙を持つ手が震える 17:30に公園に... 時計をみて時間を確認すると17:27だった 待ち合わせの時間まで3分を切っていた すぐに僕は学校指定の靴に履き替えて、公園に走って向かった 公園は校門を出てすぐだから歩いて2分もかからない だけど僕の足は走っていた 今すぐ桃香と話がしたいその一心だった 運もよく、公園までの道のりにある信号は青だった 僕はその横断歩道を走って渡った... その時ーーーーーバンッ 僕は信号無視の車に轢かれた 身体が動かない 僕は桃香に気持ちを伝えてないのに すぐそこに、桃香がいるのに... なんで...なんで... そこで僕は桃香が待っている公園を朦朧とした意識の中でみた 桃香が笑顔で僕のことを見た 僕よりも小さい身長で 少し見上げる様にこっちを向いている桃香の姿が... ごめん...桃香...約束守れなかった... そしてなにも見えなくなった 来ない... 佐々木くんが待ち合わせの場所の来なかった やっぱり私なんか嫌だったのだろうか 30分が経った今も佐々木くんは来てくれなかった 私は諦めて公園を出た 事故でもあったのだろうか パトカーや救急車などが沢山止まっていた ブルーシートで囲まれた事故現場であろう所を横目に私は家に帰った 「はぁ...」 人のいる電車の中でため息をついた 失恋とはここまで苦しいのか そして、その相手と今日も教室で会わなければいけない 電車のアナウンスが私の降りる駅を示している いつもより数倍重い足を動かし学校の最寄り駅に降りた 「はぁ....」 もう一度ため息をついて学校へと足を動かした 教室の扉の前に立ち、一度深呼吸して扉を開けた いつもならクラス全体に散らばりそれぞれのグループで談笑しているのに 今日は違った 一つの机のを囲む様にして、みんな下を向いていた 私はすぐにその集まりに混ざった 「え....」 佐々木くんの机には、花が入った花瓶が置かれていた みんな、みんな、泣いていた 崩れ落ちている人もいた 状況を理解出来ていない私に気がついた親友の詩織(しおり)が 泣きながら私の方に来た 「ももかぁ....ささきくんがぁ...」 分かってしまった 分かりたくなかった 私は詩織と一緒に崩れ落ちた 担任の先生が来るまで泣いた 先生が来てみんな泣きながら自分の席に座った 毎朝のホームルームが始まってもまだみんな泣いていた 先生も泣いていた それほど佐々木くんはクラスで重要な人だったのだ 「佐々木くんは昨日、近くの公園前で信号無視の車に轢かれて亡くなりました..........」 「っ............」 震えた声の先生から告げられたその言葉でさっきまで流れていた涙が不自然に止まった 公園の前の道路.... 佐々木くんは来てくれていたんだ 私の為に..... なら、私が呼び出さなければ.... 私が佐々木くんを殺したようなものじゃないか... 私は勢いよく立って教室を飛び出した 私は信じたくない..... 嫌だ、嫌だ、いやだ、いや 佐々木くんは死んでない... あの日から、何日、もしかしたら何ヶ月かもしれない どれくらいの月日が経ったのだろうか... 日の光なんて随分と浴びてない 私はあの日から自室に籠もっていた 自室から出るのはご飯とトイレとお風呂の時だけだった 佐々木くんが死んだのは 私が公園なんかに呼び出したからだ 死んだ? 死んでない 佐々木くんは死んでない 私が悪い....何もかも.... 私は人殺しだ.... 私が殺した....殺した.... そんな矛盾した感情が私の中を渦巻いている 流石にもうそろそろ立ち直らなければいけない... 立ち直る? 何を逃げようとしてるんだ? 『逃げるな』 佐々木くんが私に言っている 低く冷たい声で私を引っ張ってくる 「あ....あ....あぁ.......」 逃げてはいけない....逃げられない...そんな気がした 逃げることも出来なければ 今の私には向き合うことすらできない ーーーーーーーーじゃあどうすればいい?ーーーーーーーーーー ーーーーーーーーー何も出来ない.....なら....ーーーーーーーーーー ーーーーーーーーじゃあ...忘れればいいんだ...ーーーーーーーー 私は鍵をかけた もういいや こんなこと..... 私は記憶と一緒に大切な何かを忘れた気がした... 「桃香ー!助けてぇー慰めてぇー」 泣きながら私の事を呼ぶ声が聞こえる 詩織が私に抱きついてきた 制服がびしょびしょになってしまうから 泣きながら抱きつかないで欲しいものだ 「どうしたの?詩織?また振られた?」 「なんでわかるのぉ...」 「詩織のことだしね」 むぅ。っと詩織は頬を膨らませて私を半泣きの目で見つめてきた 少し泣きやんだら詩織が口を開いた 「あの男、私を見た瞬間「無理。」って言って帰ったの!」 「はは。嫌われてるね、詩織。」 「私嫌われるような事したかなぁ?桃香は私の事嫌いじゃないよね?」 「うん。嫌いじゃないよ」 そんな他愛のない会話をしていた私達を見て楽しそうだと思ったのか 朝陽(あさひ)くんが会話に突然混ざってきた 「なんか楽しそうな会話してんじゃん!」 『はぁ。』 私と詩織は一緒にため息をついていた 「なんだ?そんなため息ついて?まぁいいか。話は聞いたぞ!桃香は好きなやつ居ないのか?」 好きなやつ? 好きな人なんているのだろうか? というか好きってなんだろう? 「いn...」 私の言葉を遮るように朝陽くんは喋っていた 「あ!そうだったな!桃香は卓也が好きだったんだよな!」 「たく....や...?」 「ば、バカ!その話をするな!」 詩織がすごく焦ったような顔で朝陽くんに訴えている 何をそんなに焦っているのだろう 私はたくや?という人を知らないはずだ 激しい頭痛が私を急に襲った 「佐々木...卓.....也...?」 頭痛と共に一瞬頭に流れたその名前は 私を一瞬で闇に引きずり込んだ 何処の教室か分からないが 目を開いたばかりの私には眩しく感じた 「っ...ここはどこだろう?」 身体を起こすとカーテンで囲まれているベットの上で眠っていたことがわかった 「あら?目を覚ましたのね。鶴崎さん」 私の名前を呼ぶその声は 嫌なほど聞き覚えのある保健の先生の綾部先生だった 「は、はい。」 「体調は大丈夫?急に倒れたって保健室に来たんだからね。」 「は、はい。(倒れた?)」 「もうすぐ授業が終わるからチャイムがなったら帰りなさい。  今日は早く帰るのよ。」 「あ、ありがとうございます」 本当にいい先生だ 生徒のことを心配してくれている でも... 綾部先生がいることはありえないはずだ なぜなら去年移動になったはずだからだ 授業の終わりを告げるチャイムがなった 「綾部先生。私って何年何組でしたっけ?」 「鶴崎さんは2年3組でしょ?」 「わかりました」 心配してくれている綾部先生に背を向けて 私は保健室をでて、自分の教室へと向かった 教室にはまだ数人程残っていた そんな中、私は1人を見つけて教室の中で泣き崩れた その時すべての辻褄があった 綾部先生がいることも、倒れた覚えはないのに倒れたことになっていること そして、彼が居ることも そんな泣き崩れた私を見つけた彼が声をかけてきた 「大丈夫か?桃香?」 嫌だ、聞きたくない でも、もっと聞きたい その懐かしい声を、そしてもう一度見たい彼を、佐々木くんを 私は信じられなかった 私の目に写って居るのは あの日、私が見殺しにした佐々木くんだ あの身長、目、髪型全てが懐かしい もう見れないと思っていた、そう決めつけていた彼を 私はもう一度この目で見ている 涙が溢れた 止まらない、止まって欲しいのに 授業開始のチャイムがなっても、 涙腺が壊れたかのように泣き続けた 醜い顔をしていただろう 溢れていた涙も放課後には落ち着いていた 落ち着きを取り戻したばっかりの思考で私は情報を整理した 今、私が居るのは 本当に忘れたいと思っていた1年前のあの日... 佐々木くんが亡くなる3日前だった もしも、これが夢などではなく 本当に過去に戻っているとするのであれば 私は変えたい 佐々木くんが死ぬ事を 小説では、過去での出来事を1つを変えると、未来が変わるのだ ならば、佐々木くんが死んだ原因を無くせばいいんだ 佐々木くんが死んだ原因は、私だ 私が告白の為に呼び出したせいなんだ なら私が佐々木くんから距離を取ればいい そう...それだけ...なんだ.... 私が我慢すれば、佐々木くんは死なないんだ... 「桃香!」 その懐かしい声が私の名前を呼んでいる でも.... わ、わたしは....私は!! 「っ......!」 心の中で「ごめん。」そう呟いて 私は逃げた、逃げた、逃げ続けた... 3日間、そう佐々木くん死ぬその日まで... 逃げ続けていれば、佐々木くんも私をほっといてくれる...そう思っていた... だけど、佐々木くんは私の名前を呼び続けた 何度も、何度も、その懐かしい声で「桃香」と名前を呼び 私を追いかけ続けた... そして、佐々木くんは私の腕を掴んだ 「離して...離してよ!」 「嫌だ、離さない。桃香が僕を避けている理由は正直分からない。」 「わかるわけないでしょ...  どんな思いで私が佐々木くんを避けていたと思ってるの?  分かるわけないよね!分かって欲しくないし...」 佐々木くんは私の目を見て何もない喋らない この沈黙が辛かった 今すぐ逃げ出したかった 佐々木くんは私の腕を痛い程の力で掴んでいて離してくれない 私が逃げようと力を出した時、佐々木くんは更に力を込めて口を開いた 「桃香!僕は桃香の事が好きだ。  ずっと、ずっと前から僕は桃香を見てきた。  桃香の嫌いなところも言える。  だけど、それ以上に桃香の好きなところも言える。  絶対に幸せにできるとは限らないけど、  僕は桃香を幸せにする努力はできる。  だから僕と付きあってください。」 私は言葉が出なかった 正しくは声が出なかった 頭の中では沢山の言葉があった 私が我慢した、辛い思いをして佐々木くんを避けていたのは何だったのか? どれも、これも醜い言い訳にしか過ぎなかった 私が佐々木くんに伝わるような声をで言えた言葉は 「はい」 その二文字だけだった 頭の中では浮かばなかった二文字が 私の心の奥底から込み上げてきた その言葉には世界を、運命を変える程の力があった 私は泣いた 佐々木くんと再び会えたあの時より 今にも泣き崩れそうな私を佐々木くんは引っ張って私を抱きしめた 「桃香。泣いていいよ。泣いて、泣いて、泣いて、最後に僕に笑って。」 「佐々木く...ん...ありがとう...ごめんなさい...」 私は佐々木くんが言った通り私の涙が枯れるまで泣き続けた 佐々木くんはその間私を抱きしめ続けてくれた 温かかった 愛する人の温もりを思い出せた 愛する人の声や、髪型も何もかもを思い出せた それだけで私は確信した 私は佐々木くんの事を 大好きで、大好きで、愛おしかった 離したくなくて、離れてほしくなかったんだ 「大丈夫?桃香。落ち着いた?」 「うん。ありがとう、佐々木くん。  私は佐々木くんが大好きだよ。  だから離れないでね。  私を離さないでね。約束だよ?」 「あぁ。離さない。離れさせるつもりもない。約束だ。」 私達は涙でくしゃくしゃな顔で笑いあった そして、手を繋ぎ 私達は二人で一緒に帰った 私は未来を変えてしまった 小説では未来を変える事は絶対にしてはいけない禁忌だ だけど、その禁忌を犯してでも私は佐々木くんと一緒にいたかった 私には佐々木くんが必要だった 大罪を背負った私を佐々木くんが優しく包んでくれた その温かさを私は忘れない 「忘れないように、私に教えてね。佐々木くん、ありがとう。」 大罪を背負ったあの日から3年が経過して高校も卒業の時期になった 私達は大学も同じところを受験した 離れたくなかった それ以上に離したくなかった 佐々木くんが遠くに行ってほしくなかった 「佐々木くん!好きだよ!離れないでね。」 「あぁ。離れない。僕も好きだよ。桃香」 私達は満開の桜の木の下で再び抱き合い 忘れられない恋をしている 《完》
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