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「……。ん。今井……さん?」
「あ。気が付いたんだ。よかった」
わたしは急にその場にうずくまった彼女をかばいながら119を呼び、病室まで誘導することに成功していた。
病室イン百合田さんも映える。
病院の壁の白さと驚くほど一体化する白を纏った人だ。
「ごめんなさい。私、急に倒れたみたいで」
「だいじょうぶ大丈夫。わたしも暇してたところだし」
「すみません……」
「いやーやっぱり百合田さん流石だな。お休みの日もぬかりなく原宿にお出かけなんだね」
「いや。かかりつけの病院がこの近くで……。そんなに雑踏は好きじゃないのに」
「そっかー。ははは」
「今井さんとお話しするの、初めてな気がする」
「百合田さん人気だからさ、普段はなかなか声かけられないよー」
「たまに視線は感じていたけどね」
「えっ。そんなー。見てなんかいないよ」
「そうかしら……」
「ねえ。さっきの」
「さっき?ああ。倒れこんじゃったやつ?重い持病なの?」
「そんなに大したことはないんだけど、運動は制限されてるの。体育もあんまり参加できない感じ」
「持病の話じゃなくてさ。さっきの。なかなか大胆な発言だったね」
「さっき。わたしなんかいったかなー」
「わたしの彼女に手を出さないでください!だなんて」
「あー。覚えてるんだ……」
「うん」
「……。友達でもよかったんじゃ」
「ほらー友達だとさ、むしろ余計にふたりまとめて遊ぼうとか言われないかな!って。めんどくさくなるの嫌じゃんー。あー、でもわたしがそんな目で見られることはないか。邪魔だからどけって言われて終わりだったかも。うん。やっぱり彼女ぐらいインパクトあること言わなきゃ」
「彼女なの?私。今井さんの。……いや、萌の」
「いや、まさか、ははは」
「ふーん。まさか、ね」
「私が転校してきた次の日。なんであんなメイクにしたの?あなたはあんなことしなくてもかわいい。あなたの素の肌の色、顔立ちが私は好き。こんなただ白いだけの私の身体と違って、とっても健康的で。保健室で間近でみて、確信したわ。私の見立ては間違ってなかったって」
「え、保健室で……?」
「うん。あなたの寝顔。とてもよかった」
「ねえ、百合田さん」
「メロでいいわ」
「メロ……。もう意を決するしかないよね……。わたし、一目惚れだったの。ねえ。転校初日、凄い衝撃を受けた。とてもきれいで、美しくて、心の底から、あなたに近づきたかった。でもこれが正しい気持ちなのかわからなかった。迷ってた。でも、いまなら、うん。わたし、あなたのことが、恋愛対象として好き。だから。だから、わたしと、付き合って、もらえないかな……」
わたしは、気がついたらメロと抱き合っていた。そして、接吻。キスをしていた。
……。
…………。
………………。
メロはかすかに赤面した。
メロの赤面に対して、わたしの顔は何色に染まっていただろうか。
きっとそれは青色だ。
メロの柔らかな肌と対比して自分の身体がカチカチだったから?
ちがう。
窓に映ったわたしの顔が青色をしていたから?
ちがう。
それは、窓の先に、わたしとメロの姿を、物憂げに、真っ直ぐに見つめる、美佳の姿がそこにあったからであった。
百合田メロ 完
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